とまどい

※短編『帰り道』の二人です。


『大丈夫。大分楽になった。』
ベッドに寝転がってメールを送信した。 そしたら数分もしないうちにアイツからの返信。

 起き上がれる? 

『昼過ぎからは寝てないよ。』 っと。 はい、送信♪


 ほんとーーに大丈夫? 

おいおい、今授業中だろ?メールなんてしてんなよ・・・と思いつつ、
『ほんとーーーだって。もう熱下がってるから。』 で送信。


 じゃあ玄関開けて。 

「は!?」
思わず声を上げて急いで窓の外を見たら、アイツが窓に向かって手を振ってた。 マジっすか??





「親は?」
「仕事に行ったよ。 休んでもらうような熱じゃないし、
 そもそも付きっきりで看病してもらうような年でもないし・・・。」
「俺なら張り付いて看病しちゃうね。 おかゆ 『ふうふう あ〜ん♥』 てして欲しい?」
「欲しくない! 気持ち悪いこと言う・・・ッ」

急に大声を出そうとした俺は激しく咳込んだ。 あ゛あ゛〜〜苦しい。何考えてんだよ、コイツは!

「ナオはもう喋んなって。声出すの辛そう。」

お前がヘンなこと言うから悪いんじゃないか!とは思ったが、言わずに横を向く。


「ていうかさ、本当に熱下がったの? 顔赤いよ?」

俺の額を触ろうと伸ばしたマサキの手を咄嗟に避けてしまった。
マサキは一瞬驚いたような顔をして、そして苦笑いしながら手を引っ込めた。

顔が赤いのはさっき咳込んだからで、おかゆ『あ〜ん♥』にも動揺したからで、それより何より今日会えると思ってなかったお前の顔が見れちゃって嬉しくて、且つ、二人きりで照れちゃって〜・・・なんて言い訳はたくさん浮かんでくるのに声が出ない。 ああ、違う。コイツの手を避けちゃった言い訳が必要なんだってば。 ええと、『恐かった』とか? は?何それ!?ダメに決まってるじゃんそんなの!! ああそうだ、『ビックリした』は? ・・・・・・・・・いや、なんで額を触られそうになっただけで驚くことがあるんだ??
やっばい、何にも思いつかない・・・。 どうしよ・・・、今のは絶対コイツを傷つけた・・・。 どうしよ・・・

「んー、ナオは声が出しにくいようだから今から筆談ね。 つっても紙と鉛筆じゃ面倒だから・・・
 メール談? 携帯に会話を打ってくことにしよう。」

全く気にもしていなかったのか、慌てふためく俺を余所に呑気に提案する。
てことで俺が携帯に文字を打って、マサキが普通に答えて、のメール談が始まった。 ・・・が、俺は元々携帯の文字入力が得意ではない。メチャクチャのろい。 ベッドを背にして並んで座っていたマサキが俺の手元を覗き込んでいるので益々入力ペースが遅くなった。 所謂、焦りと・・・緊張?


 ゆっくり静かに喋れば咳込まないし声も出るし、普通に話せるよ? 

「却下。」

 文字打ち苦手なんだよ。紙じゃダメ? 

「ダメ。」

 なんでだよ 

「メール談の方がこうやってナオとくっつけるじゃん。」

げっ・・・

「お前、この間から俺のこと避けてるし。」

 さけてな・・ 

「避けてるよ!」

打ち終わる前に断言された。
べ、別に避けてたワケじゃないんだけどさ・・・  というのは嘘で、ちょっと避けてたかもしれない。
いえ、完全に避けてました・・・。 だってさ〜・・・

ちょっと前に学校内の階段脇で、すっごい濃いキスなんかされちゃって腰を抜かしかけた俺。 勿論マサキとキスするのは嫌じゃない。嫌じゃないどころか『したい』と思う。動悸はやたら激しくなって苦しくなるけど。
ただ、唇を触れ合わせる程度の時には漠然としか見えてなかったことが、急に現実味を帯びてきたと言うか、意識せざるを得なくなったと言うか・・・。
何をって・・・、 『その先』 を。
これが学校じゃなかったら、人が通りかかるような可能性がない場所だったら・・・、確実にその流れになる!という妙な予感がひしひしと押し寄せてきた。 それが嫌なワケでは絶対無い。けど、正直ちょっと恐くなった。 だからあれ以来校内でもなるべく二人きりシチュは避けて、目を合わせるのも避けて、マサキの部屋に遊びに行くことも自分の部屋に呼ぶことも何のかんの理由をつけて断っていた。 これじゃ気付かないわけないよなぁ、確かに。


「さっきもだけど・・・お前ちょっと露骨すぎ。 傷付くじゃん、俺。」

うん。 俺もちょっと意識過剰だったかなって反省してるかも。 やっぱり傷付いてたよね・・・ゴメン。


「てことで、場所移動!」

ビシッと指差されたのはベッドだった。  は!? 『てことで』って、話が全然繋がってないよ!?

「え・・・、ヤダよ・・」
「ヤダとか言わない! ほら早くっ!」
「だって・・・」
「だってじゃねえ。 早くしろ。」

なんでなんでなんで???
いきなり且つ強引な展開に困惑しつつも、素直に従ってベッドに移動してしまった俺である。

自分のベッドの真ん中にちょこんと正座して両手を膝の上で握り締めて。 そんな俺の姿を見てマサキが笑う。 『なに固まってんだ。置物みたい』 って。 なにじゃねえだろ!?当たり前だろ!?ていうかどうしてこんなことになってるんだ? なんで俺は大人しくコイツの言うこと聞いちゃってんの。そもそも俺病人じゃなかったっけ?
ぐるぐると考え込んでいる間にマサキが隣に移動してきて俺の肩を抱いた。 あっ、と思う間もなく顔が近づく。

「風邪・・・うつ・・」
「いいよ、感染うつして。」

触れるか触れないかのところで囁かれた低い声の振動で、俺の唇が震える。
マズイよ。 こんな体調の時に、こんなシチュエーションでコイツとのキスはマズイですよ。 絶対思考が吹っ飛ぶ。 でもこういう時に限って咳も止まってんだよな・・・ あーやばい、頭ぼーーっとしてきた。また熱上がってるかも・・・。 全部コイツの無茶苦茶な行動の所為だよー・・・。

「ナオん中・・・熱い」

な゛っ・・・!  く、『口の中』ってちゃんと言えよ、略すな! 卑猥な意味に聞こえるじゃないかっ!!
頭の中では勢いよく悪態を吐いてるくせに、口から漏れるのは甘えたような、切なげな吐息。
いつの間にか俺はベッドに横たえられていて、マサキが上に覆いかぶさっている。 
まさか・・・とは思うけど。 このまま・・・とか、ない・・・よね!? まさかだよね!?


「そんな怯えたような顔してもダメ。俺、止めないよ。 こんなチャンスは二度とないだろうから。」


キスを一旦中断し、目の前でマサキが真顔で言い放った。

うっ ウソだろーーーーーーっ!?
身体中の血液が一気に顔に集まって、そして一気に引いていった。動悸は激しくなるし、冷や汗は吹き出てくるし、視界はグラグラと揺れている。 焦りまくる俺にお構いなしでマサキの顔が再び近づいてきて思わず固く目を瞑った・・・・・・けど、予想に反して(?)暫く経ってもキス再開の気配がない。 恐る恐る目を開けてみると、マサキが顔を顰めて俺を見下ろしていた。


「俺、そんなに余裕なさそう?」
「・・・え?」
「まあ、確かに余裕はあんまりないんだけどぉ。
 でも、ナオが嫌がるようなこと無理矢理するような、そういうヤツだと思う?」
「そんなこと・・・」
「思ってるから警戒してずっと避けてたんだろ?  あ〜〜ショック。
 今だってそうだよ。 病人襲うわけないじゃん。 俺はそこまで鬼畜じゃねえっての。」

え・・・、じゃあ、『止めない』とか『チャンス』とか・・・さっきのあの恐ろしい台詞はなに???
呆然とする俺の上から下りて笑いながら付け加える。

「露骨に避けられて俺もちょっとムカついてたからな、揶揄った。
 ほら、ちゃんと布団入れって。 なにもしねえよ、お前の親が帰ってくるまで添い寝するだけ。
 な? それぐらいは許してよ。」

「マサキ・・・」
「あー・・・、それ止めろ。 そんな掠れたエッロい声で名前とか呼ぶなって。 潤目うるめも禁止!」

なんだよエッロい声って・・・



結局、俺たちは二人仲良く(?)一緒に布団の中で横たわっている。勿論服は着たままだけど、俺の背中からマサキが抱きつくように隙間なくピッタリくっついて寝ている。(眠れるわけはないけど)

「おいナオ・・・もぞもぞ動くなって。」
「ん・・・・・・ごめん」

でもさぁ・・・腕の中に包まって人の体温感じるのって安心するのはするんだけど。まあ普通はそうなんだろうけど。今の俺はそれどころじゃないって言うか、重なっている背中どころか全身が熱くなっちゃって何が何だかワケがわからない。うなじとか耳元にマサキの吐息がかかるしっ。ほんと落ち着くどころの騒ぎじゃないよ、って感じではあるけれど・・・・・・。

「顔見れないと寂しいかも・・・」
「バっカ、そういうこと言うなって! この状態でも結構キビしいのに・・・」
「なにソレ。 マサキって意外とヘンタイだよなぁ〜・・・」
「るせっ。 なんだよ、何もされないとわかったらいきなり強気か。 全快したら覚えとけよ。」
「嫌がることはしないんだろ?」
「嫌がんの?」

「わかんないけど・・・・・・」


ボソリと呟きながら、俺の身体に廻されていたマサキの腕に自分の手をのせた。
嫌だなんて・・・、最初から思ってないんだってば。 ほんとにそれは嘘じゃない。

ただ、俺はまだ、苦しくて切なかった片想いの頃から殆ど前に進んでないんだよ。
自分の想いがお前に届いたことすら信じられないでいるんだよ。
唇が軽く触れただけでも舞い上がっちゃうような状態なんだ。

だから、もう少し、ゆっくりなら。
戸惑ってる俺の気持ちが落ち着くのを待っていてくれれば・・・

少しでいいから。

そう願った冬のある日の午後だった。










今回はナオト視点だけで。
おーい、流れが逆行してるぞ〜〜!!





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