キスとスキのあいだ

※とんでもなくヌルい話ですよ?よろしいですか??



ちゅっ、って・・・


聞きなれない音と馴染みのない感触で、一瞬余所に逸れていた意識を引き戻された。

なに、今の?? 疑問符が目の前に散る。



「なにすんだ。」
「キス」

それはもうこの僅かな時間で認識したっての。
だから 『なにをしたか』 じゃなくて 『なんでしたか』 を知りたいんだよ俺は。

目の前に座って頬杖をついている男は至って涼しい顔。
ちょっとばかり動揺したのを知られたくなくて、眉間に皺を寄せて険しい顔を作った。

「怒んないでよ。」
「怒ってない。」
「顔恐くなってるじゃん。」
「元からこういう顔だよ。」
「声も怒ってる。」
「怒ってないってばっ。」

と言いつつ明らかに怒り口調だったけど。

怒らないでと言いながら、ゴメンとは言わないコイツ。
悪いとはこれっぽっちも思ってないんだろう。 俺も、『もうすんな』 とは言う気にならなかった。

「いきなりすんな。」
「宣言すればいいの?」

まあそういうことになる、・・・のかなあ?? よくわかんない。


「じゃあ、・・・するよ?」
「・・・・・・・・・。」

椅子からちょっと腰を浮かせて二人の間の机を乗り越えてヤツの顔が近づいてきた。視線を合わせたまま、じっと動かずにいる俺。

人影がなくなった放課後の教室に、2度目の 『ちゅっ』 が響いた。


今度のは了承した上でのモノだからさっきとはドキドキ感が違う。
俺の心臓の音がコイツに聞こえてしまったんじゃないだろうか??

この異常なほど激しい動悸の理由は、生まれて初めてキスしたからだけじゃない。
相手が男で、2回目も男で、それも同じ男で、毎日隣にいるヤツで。 やっぱりちょっと非・一般的だから?


でもそれが嫌じゃないのが不思議なんだよ。 もっとしたいって思うから不思議なんだ。


「呆けてないで早く写しちゃえば?」

手元に並べて広げられていたノートをボンヤリ眺めていた俺に言う。
お前が妙なことするからじゃないか!とは思うけど、授業中にも呆けてて黒板に書かれた重要ポイント(らしい)を写さなかった俺も悪いし、それ写させてもらってるし、帰るの待っててもらってるしで反論は止めた。


しかしその日から、 『するよ?』、 『いい?』、 って形だけの前置きつけて不意打ち(?)のキスを何回されただろう??

───・・・ なんでこんなことしてるんだろうか?? イヤじゃないけどヘンな感じ。 すげーヘン。

いい加減、ドキドキと驚きは減ったけど、疑問だけは膨らんでいた。










次の体育の為に、休み時間のうちに更衣室へ向かうべく皆がぞろぞろ教室を出始めていた時だった。
窓の外を見るとまだ昼間なのに薄暗い。鼠色の重そうな雲が空を覆っているし、校舎脇の枯れ木がユラユラと揺れるくらいに風も強い。 寒そうだな〜って眺めてたんだけど。

俺に何やら話し掛けていたアイツが不意に黙り、俺の両腕をきつく掴んだ。 ボソリと ”例の前置き” を呟いたから、驚いて咄嗟に顔を背けると明らかに不満気な表情を浮かべた。

幸い周りに居たヤツラは俺たちの遣り取りを気にも留めず離れていったからいいけど、こんな時にしようとする方がおかしくね? 第一、宣言すればいいってもんじゃないだろ!?

意味のわからないコイツのキスの所為でモヤモヤと知らぬ間に抱え込んでた意味不明な自分の気持ちがグチャグチャになって膨れ上がって胸の中を占領して息が詰まる。

後退る俺を追うように顔を近づけてきたから、さすがに腹が立って声を荒げた。


「時と場所をっ ──・・・」
「イヤなんだよ!!」


「・・・は?」

「お前、時々どっかいっちゃうじゃん。
 俺の前にいても俺を見てないじゃん、俺のこと考えてないじゃん。」

「・・・・・・はあ?」

いや、呆けるのは俺の癖というか性質で、決してワザとでは・・・



「イヤなんだよ。 ずっと俺のこと見て俺のこと考えててくれてないとイヤなんだ・・・。」



怒ってるような、今にも泣き出しそうな顔。  ガキか!?コイツ?? 信じらんねえ・・・けど。

唐突にわかってしまった 『キスの理由』。 今まで気付かなかった俺も相当バカでガキ。


ああコイツ、俺のこと好きなんだ。

ああそっか。 俺も、コイツのこと好きなんだ。


いきなりの判明に、戸惑い少し、嬉しさいっぱい?? 顔が・・・、いや、全身が急に熱くなった。



「呆けてる時以外は・・・お前のことしか考えてないけど?」


フォローなのかなんなのかよくわからない俺の台詞に、メチャメチャ嬉しそうな笑顔が返ってきて、またまた俺の体温は上がってしまったのだった。





本鈴を聞き流しながら、誰もいなくなった教室でのキスは相変わらず唇を重ねるだけのものだけど。

今までよりも、ずーっと長くてずーーーっと甘い。


だって、今までとは全く意味が違うから。










衝動的に、究極にヌルーーい話が書きたくなる。
赤面しながらも・・・。





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