晴れた空が眩しい (2)



あの男と会わなくなってから2週間、俺は以前と全く変わらぬ生活を送っていた。
元々マメに連絡をしあっていたわけでもないし頻繁に会っていたわけでもない。 2週間という時間は、俺にとって長くも短くもない。

なにも 感じない・・・

あの日、あのホテルの部屋を出た瞬間は、胸元を押し潰されるような強烈な痛みと息苦しさを感じてしまったのは事実だ。 強がって、必死でそれを否定してはいたけれど。 だけど今は、本当に何も感じない。
感慨に耽るような想い出など、あの男との間には初めから無いのだから当然なのかもしれないが、苦しい、寂しい、悲しい、清々した・・・、もう少し何らかの感情が沸き起こるかと思っていたのに。
温もりを失いたくないから距離を置く ─── 矛盾はしていたが、この1年、俺には必要なことだった。
皮肉にも今、それが功を奏しているのかもしれない。

それとも、もっと時間が経つにつれ、人肌がなくなったことを実感して寂しくなるのだろうか?
それとも・・・ このまま記憶が薄れていき、思い返すことすらしなくなるのだろうか?


「セフレと切れただけだし。 どうだっていいだろ・・・」

珍しく俺一人しか乗り込んでいない下りの広いエレベーターの中で、言い聞かせるような独り言が自然と口をついた。

エントランスホールを横切りながら、明日は土曜だし、久しぶりに飲みにでも・・・と思いかけてすぐに首を振る。
俺は実際あのバーぐらいしか落ち着いて飲める場所を知らない。 この一年は、ホテルに入る前にそこで少し酒を呷って、が常で、隣には必ずあの男がいた。

偶然遭ったらイヤだし・・・、今更新規開拓する気力もないし、この時間に友人を誘って居酒屋にというのも面倒だ。


「大人しく帰るか・・・」

何度目かの独り言を溜息と同時に吐き出す。

しかし、正面玄関の自動ドアを潜り抜けたところで足が固まった。
ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる男が、自分の真正面に着くまでに乱れた呼吸を落ち着ける。


「随分遅くまで仕事してるんだな」

「特に遅くもねえよ。 こんくらいフツー ──・・・ 」

クスリと笑われて、漸く自分の失言に気付いた。 これでは、この男から連絡があった日は早目に仕事を切り上げていましたとバラしているようなもので。

「べ、べつに今までアンタの為に早く上がってたワケじゃねえしっ!」

自分でも苦しい言い訳だと思っているのに、目の前で肩を震わせながらクツクツと笑われては余計に羞恥が募る。自分の顔が勢いよく火照るのを感じた。 それを誤魔化すように、男を詰る言葉を投げつけた。

「会社の前で待ち伏せとかさぁ、ルール違反じゃない!?」

「それは悪いと思ってるよ。 でも携帯も繋がらないし他に方法がなかったから。」
「そりゃ番号変えたし。」
「あっさりしてるよな。」
「引き摺りたくねえんだよ。 てゆーか、なんの用だよ、俺もう帰りてえんだけど?」

「とにかく場所を変えないか? 俺は別に困らないが・・・」

そこで言葉を区切って俺の背後に視線を移した。会社のエントランスはこの時間になっても割と人の出入りが多い。俺がフロアを出る時も、同じ部署の人間がまだ何人も残っていた。 社の人間は俺とこの男の関係を知っているわけではないから、普通に話しているのを見られたところで何の問題も無いはずだが、やはりなんとなく後ろ暗い。

黙り込んでいるのを肯定と受け取ったのか、男は会社前の大通りに身体を迫り出してタクシーを停めた。
開いたドアに手を掛けて、無言のまま俺を窺う。


「最悪だ・・・」


これ見よがしに舌打ちをして、俺はタクシーに乗り込んだ。





(続く)
ちょっと続きそう・・・
久しぶりすぎてこの話のノリと設定が思い出せない(苦笑)





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