『潤と和成のクリスマス』 : 【side-潤】
これはまだ俺と和さんが微妙な関係だった頃のクリスマスの話。 (LYD と TiTL の間くらい)
最近立て続けに色々あった所為・・・ってワケじゃないだろうけど、2学期半ばになって成績が落ちた。 元がそんなに悪い成績じゃないし模試の志望校合格判定も未だにAだし、少しぐらい下がったところで大したことじゃない (他の受験生に刺されるからあまり大声で言うなと和さんには常々注意されている) のだが、和さんは酷く気にしてしまって、学校へ行く時以外は家に篭って勉強してろって言いだした。つまり、受験が終わるまで部屋に来るなということで、カテキョの日以外和さんの顔が見れないということだ。
山田事件が無事解決してから、和さんは俺とのことを一応前向きに検討してくれているらしいのだが、まあ、さすが和さんとでもいいますか、俺が望んでいるような大進展はまだない。 それどころか12月に入ってからは、受験を理由に会う回数も時間も制限されていた。(部屋に行っても短時間で追い出されちゃう) それで今度は部屋に来るななんて・・・、これは絶対逆効果だと思うんだよね、俺。 出禁を言い渡されてからまだ数日しか経ってないが、既に電話でもメールでも、とにかく和さんに連絡したくてウズウズしてる。所謂 『禁断症状』 みたいな感じ。こんな状態じゃ勉強になんて集中できねえっての。
ほんと、そろそろ限界!なんだけどさ・・・、好都合なことに世間は今クリスマス一色でどいつもこいつも浮かれまくってる雰囲気なワケですよ。 恋人たちもまだそうでない二人も、イロイロ盛り上がってオッケーって時期なワケですよ。 この機を逃す手はないでしょ〜。 てことで早速和さんに電話をした。
『勉強は?』
挨拶も抜きでいきなりこの言葉。素っ気ないにもホドがある。
「和さんのことばかり考えて手につかない。」
『馬鹿なこと言ってないで勉強しなさい!』
「馬鹿なことじゃないよ。ほんとのことだよ。 このまま和さんの顔を見ないでいたらまた成績落ちる。」
『あのなぁー・・・』
「息抜きも必要じゃん?」
『俺は息抜き材料かよ・・・』
「違う。癒し材料。」
耳元に和さんの大きな溜息とクスクス笑い。 あー・・・、これだけでも癒されちゃう俺って絶対オカシイ。
「じゃあさ、せめてクリスマスだけは一緒に過ごしてよ、ね? それ以外は我慢するから。ね??」
邪心満載なとこはおくびにも見せず(見せなくてもモロバレでしょうが)、精一杯の猫なで声を作ってお願いしてみたのだが、返ってきたのはあまりにも無情なお言葉。 ほんと、携帯落とすかと思った。
『残念でした。俺クリスマスは東京に居ないよ。 って、あれ? 言ってなかったっけ??』
「うっそ!!聞いてないんですけどっ!! 何で?? ドコ行くの??」
『北海道〜♪ 従姉妹の結婚式に出んの。 ついでに旭川でペンギンの行進見てくる。』
何それ、俺って旭山動物園以下?? 地味にヘコむわ。
『そういうことじゃないって〜。 仲良かった従姉妹でね、出席しないわけにいかないんだ。
ペンギンはついでだよ、ついで。』
それ絶っっ対ウソだ。声がメチャクチャ弾んでるし! 前からTVで旭山動物園の映像が流れてる時は声掛けても返事してくれなかったしっ!
「じゃあ俺のバラ色クリスマスは・・・?」
『受験生にそんなものあるワケないだろ。』
にべもなく、キッパリ言い切られてしまった。
女のように記念日やイベントに拘りたいワケじゃないけど、今回の場合はさ、クリスマスに託けないと顔も見れないという最悪な状況を打破しようと意気込んでいたし、懸けていただけにショックがでかい。
『わざわざクリスマスに式挙げるんじゃねえよ!』 とか 『出会った場所で式挙げろ!旦那の地元に戻って挙げんじゃねえ!』 とか言いたいことは山ほどあれど、殆ど八つ当たりなそれを和さんに言う訳にもいかず俺は大人しく電話を切ったが。 ヤバイんじゃない?このままじゃ俺、大学落ちるんじゃない?? 珍しく弱気になってしまったのも事実である。
まあ、めげずに空港まで見送りに行っちゃったけどね。
出発当日いきなり空港に現れた俺を見て、当然のことながら和さんは座っていたベンチから滑り落ちそうな勢いで驚いていた。
「なんでここに居んの!?」
「時間と航空会社は聞いてたし。」
「そうじゃなくて・・・、もしかして、学校サボったのか!?」
「創立記念日〜。」
「創立記念日は5月だろ。俺も卒業生なんだぞ?ヘタな嘘つくな。」
「終業式前日なんてサボったって問題ないよ。」
「俺はそういうことを言ってるんじゃないんだってば! とにかくちょっと来い!」
今までに聞いたこともないような厳しい声音と口調で言い放つと、俺の腕を引っ張ってどこかに連れて行こうとした。 キョトンとして俺たちを見ていた隣の男性と女性 (間違いなく和さんの御両親だな。顔が皆同じだったもん。) に軽く会釈して導かれるまま和さんについていったけれど、ロビーの隅の隅にある比較的人影が少ない公衆電話脇の通路に着いた途端怒鳴られてしまった。 『なんでお前はわかってくれないんだよ!』 って。そう言われてもねぇ・・・。それはこちらも言いたいコトだし。 ちょっと面白くなくて黙っていたら、露骨に大きな溜息を吐いた。
「お前が成績いいのは知ってる。ちょっとくらいサボったって平気だってのもわかってる。
でも俺・・・、心配なんだよ。 万が一ってこともあるし・・・、とにかく心配なんだ。」
俯いたままだったので表情はわからなかったけど、本当に心配そうな、今にも泣き出しそうな声だった。
「俺が安心したいだけのために 『勉強しろ』 ってウザく言うなんて勝手だとは思うんだ。
・・・でも、やっぱり、俺は潤に合格して欲しいし・・・。」
ウザいとも勝手だとも思ってないし、和さんが本当に心配してくれてるのもわかってる。寧ろ、それをわかっていながら 『会いたい』 を連発して困らせる俺の方が悪いんだ・・・って、柄にもなく反省してたんだけど。
「それに・・・、また一緒の学校通いたいじゃん?」
突然顔を上げて、照れくさそうに和さんが笑った。
中学生の付き合い始めのカップル並な台詞に俺は唖然。 ”また一緒に”って、あの頃は俺なんてアナタの視界にも入れて貰えてなかったじゃないか!なんて当然突っ込めるはずもなく・・・。
「ああ、もうっ!外じゃなかったら絶対キスしてるのにっ!!」
「なに言ってんだよ・・・。」
俺の邪発言に苦笑いしながらも、『じゃあ、もう行くね。』って、別れ際に頬に掠める程度のキスをしていってくれた。
・・・ていうか、この程度でニヤけちゃうところがかなりヤバイんだって。
その日から、和さんの期待に応えて寝る間も惜しんで勉強を・・・する気にはなったけど、まあ結局いつも通りタラタラと時間を潰していた俺。 街中の過剰なデコレーションを見ては舌打ちし、流されっぱなしのクリスマス・ソングには耳を塞ぎ、クリスマス特番が流れ始めた途端にTVはブチ切った。
そして今日、クリスマス当日。
成長してから特に望んでもいない相手と最低なクリスマスを過ごしたことは度々あるが、今年ほどキツく長く感じたことはない。 2日前の反省を無にして 『会いたい』 攻撃をしてしまおうかと思ったが、約1,000km の物理的距離はどうにもならないので断念した。
「玲子さん・・・」
「なんだ、息子。」
「ケーキとかチキンとか買ってきちゃう?」
珍しく12時前に帰宅していた母親に話し掛けてみたが、『空しいから止めろ』 と切り捨てられた。 この歳になってクリスマスに母親と二人きりというのもかなり侘しいが、その母親にすら相手にされないのも相当悲しい。
「耐えろ、息子よ。 寂しいクリスマスは後1時間程で終わるぞ。 キツいならいっそ寝てしまえ。」
そう諭されて大人しく布団に入った時である。
携帯が鳴って、受話器からやたら能天気な和さんの声が流れてきた。
『メリー・クリスマース!』
そりゃ声は聞きたかったですけれども・・・、なんなんだよこの能天気ぶりは。
こんな日に会えなくてクサってるのは俺だけで和さんはどうってことないんだろうけど、ここまで温度差があるとやっぱりヘコむ。 零れそうだった恨み言はグッと呑み込んで、極力平静を装った。
「メリー・クリスマス。 どう? そっちはホワイト・クリスマスになってる?」
『ああ、なってたなってた。
大雪の一歩手前みたいでさ、ホワイト・クリスマスなんて情緒あるもんじゃなかったけど。』
さっき見た天気予報で北は大寒波に見舞われて大雪になりそうだと言っていて、俺は明日の飛行機の心配をしていた。 これで和さんの帰京が延びたら俺はマジで壊れる。
『でも飛行機は飛んだから良かったよ。』
「・・・ん?」
『こっちは暖かいと思ってたけど、やっぱ寒いね。 ていうか、早く降りて来てよ。寒いよ。』
「は!?」
『ああ、ごめんごめん。 今、下にいるんだ。 言ってなかったね。』
和さんが言い終える前に電話を切って疑い半分で速攻マンション下におりた俺だけど。
「ただいま〜! はい、これ。」
”お帰り”のハグをする間もなく、目の前に突き出されたのは巨大なペンギンのぬいぐるみだった。
「動物園土産〜♪ カニはね、クール便で送ったから明日届くと思うよ。 玲子さんと食べて。」
「・・・・・・はぁ、ありがとうございます。」
「スッゲー可愛いかった、ペンギン。」
「ああ・・・、そうですか・・・。」
「ペンギン、嫌い?」
「嫌いじゃないけど・・・」
てか、この機会に嫌いになりそうだよ。
「今度一緒に見に行こうよ、実物。」
前言撤回。ペンギン万歳。 このヒトのことだから言葉通り 『一緒に見に行くだけ』 の可能性の方が高いが、お誘いには違いない。 とりあえずテンション3割復活。
「なんか、暗いよ? 具合でも悪い?」
具合は悪くないけど。 暗いのはあなたの所為でしょ、明らかに。
「『お帰り』、ないの?」
その前にペンギン話をし始めたのは誰だ。
「式が終わってから最終便に乗ったのに。 1日前倒しにしたのに。
急いで空港からココに来たのに。 ・・・ギリギリでクリスマスに間に合ったのに。」
唇を尖らせてモゴモゴと話す和さんを見てテンション8割復活。 完全復活まであと少し。
いつもならこんなこと言われた時点でメーター振り切れるけどね。今回は元が底辺付近だったから。
「驚かせようとしたのになぁ〜・・・。 もうちょっと喜んでくれたっていいじゃん・・・。」
「勿論驚いてるし喜んでるよ。
ただ、会いたい会いたいって思いすぎて、とうとう幻でも見ちゃってるのかと思って・・・。」
「本物だよ?」
「・・・まだよくわかんない。」
「どうすればわかるの?」
「・・・どうすればいいのかな? 和さん、わかる?」
・・・催促してるのわかるだろうか? わかったところで軽く流される? 最近俺を上手く躱すんだよな。そういうとこだけ上達して欲しくないんだけど。
和さんは俺の顔をじっと見て暫く黙っていたけれど、・・・ちゃんと望むものをくれた。
掠めた鼻先も軽く重ねられた唇もひんやり冷たい。 顔を離される前に両手で挟んだ頬も冷えてる。
でも滑り込ませた舌先は溶けてしまいそうなくらい熱かった。
それに、『もうダメ。おしまい。』って言いながらも、抱き寄せていた俺の腕を振り解こうとはしなかったし、俺の舌の動きに一生懸命合わせてくれようとしてた。
「和さん、部屋上がって・・・」
「・・・や、ヤダよ。 俺疲れてるもん。早く帰って寝たいもん。」
過剰なオネダリは呆気なく却下されたけど、何と言っても俺の為にクリスマスに間に合うように帰って来てくれたんだ。今はそれだけで充分。
和さんからのキスという最高のクリスマスプレゼントも貰えたことだし。
ほんの十数分だったけれど、俺にとって今までで一番温かくて甘いクリスマスになった。
+++ end +++
まだ付き合う前なのでこの程度
喜ぶポイントが和成仕様に低くなってきてる潤でした
まだ付き合う前なのでこの程度
喜ぶポイントが和成仕様に低くなってきてる潤でした
『潤と和成のクリスマス』 | 『閑話』 | 『清里と智也のクリスマス』



