『山田と市川のバレンタイン・・・かな??』 (1)



【2月7日 : 木曜日】

深夜遅く帰宅して携帯をチェックしてみると、山田からの不在着信があった。メッセージは残されていないしメールも入っていないから急ぎの用ではないのだろう。 そのまま放っておこうかと考えながらも履歴を表示して通話ボタンを押すと、数コールもしないうちに電話が繋がった。 『肌身離さず』 の状態でいたことが容易に想像できて溜息が出る。 コイツのこういうところは本当に重い・・・。


『今日バイトだって忘れてて掛けちゃいました。特に急ぎの用じゃなかったんですけど。』

「なんだ?」
『来週の木曜日、何か予定が入ってますか?』
「木曜? 来週は特にないと思うけど。」
『じゃあなるべく空けておいて下さい。』
「ああ、いいけど・・・」
『突発で他の予定が入ったら・・・別にいいですから。』
「あ、そ。 わかった。」


短時間で通話は終了したし、内容もまあ普通。しかしなんとなく気が滅入る。 相手が女の時と同じで、対・男でも、『別にいい』 を言葉通りに受け取ってはいけないと山田と付き合い始めてから学習させられた。 恐らく来週の木曜はたとえ突発で予定が入ったとしても山田と一緒に過ごすことになるだろうという妙な確信がある。 それが嫌なワケではないのだが・・・。
何気なく携帯のカレンダーで日付を確認して更に気分が重くなった。

2月14日、木曜日。 世に言う 『バレンタイン・デー』

まさかまたくだらないことを言い出すんじゃないだろうな・・・??


その不安が的中することをこの時の市川が知る由もない。










【2月12日 : 火曜日】

講義棟地下の売店に倉田と一緒に行ったのであるが、スナック菓子の棚の横に特設されていたチョコレートコーナーの前で、倉田が不思議そうな顔をして立ち止まった。

「大学の売店で買ったチョコを贈る子っているのかな?」
「さすがに本命にはやらないだろ。」

市川にも大学の売店でチョココーナーが特設される意味はわからない。

「あ、大学の校章入りのチョコがある!すげー。」
「シャレで潤にあげれば?」
「潤はチョコ嫌いだよ。市川が山田にあげればいいじゃん。」
「なんで俺が山田にチョコやらなきゃならねえんだよ・・・」
「はは、シャレで?」

校章入りチョコを眺めて笑っていた倉田が、不意に真面目な顔をして市川に向き直った。

「男同士でもバレンタイン・デーって重要?」
「さあ? わかんねえけど・・・。 なんで?」
「14日は絶対一緒にいるんだって潤が力込めてたから。 いつも大抵一緒にいるのにって思わない?」
「理由なんてなんだっていいんだろ。
 バレンタインに限らず、お前とならどんなイベント事でも潤には重要なんだろうし。」
「そうかな。」
「そうだろ。」

「俺、バレンタインってピンとこないよ。 チョコなんて母親と近所のおばさんにしか貰ったことないし、
 ましてや女の子と一緒に過ごしたことなんかないし・・・。」
「ここでそういう悲しい事実を俺に暴露してくれなくていい。」

「酷ッ! でもほんと、どうすればいいのかわかんない。 潤、チョコ嫌いだし・・・、
 他に何かあげるって言っても何がいいかわかんないし。 ・・・何すれば喜ぶんだろ??」
「直接訊けばいいじゃん。」

「そうなんだけどね・・・。 市川はなんか考えてる?」
「え、俺?なにを??」
「なにをって・・・、だから山田に。」

「山田に??なんで??」
「なんでって?」
「だからなんで俺が山田に??」

売店内で目を見開きながら見詰め合っている(?)男二人の脇を、怪訝そうな顔をして数人の学生が通り過ぎていく。

「そりゃ付き合ってるからだろ?」

倉田が当たり前のことのようにサラリと口にした。 これには市川の方がいつも戸惑う。

倉田自身男と付き合うことに全く抵抗がなくなったわけではないだろうが、事実はちゃんと受け入れていて、潤と付き合っていることを躊躇いも無く口にする(公言しているという意味ではない)。恋愛話(特に猥談)を仲間内でするのは苦手な癖にその辺はかなり潔い。 だから今のように、市川と山田のことに関しても何でもないことのように話す。 それは市川には理解しがたく、そして容易にはできないことだった。

何となく居心地が悪くなって、冗談交じりに自分の方から倉田と潤の方に話の流れを戻した。

「あー・・・、俺は特に何もしないと思うけど、まあ潤が喜ぶことって言ったら一つしかないんじゃない?」
「えー、なに??」





「お前が裸でリボンかけるとか。」

「・・・・・・・・・・・・。」


真っ赤になって怒り出すかと思ったら、意外なことに倉田は眉根を寄せて市川を凝視した。

「倉田・・・、真に受けるなよ?」

「受けるわけないだろ・・・。」
「いや、急に恐い顔して黙り込むからさ。」

「んー・・・」


そのまま険しい顔は元に戻らない。 まさか本当にやるつもりじゃないだろうな・・・??と考えて少々不安になっていた市川であるが。


「市川・・・」
「なんだ。」



「お前・・・、山田の前でそんなことしないよな?」


・・・・・・は?  あまりな言葉に一瞬頭が真っ白になった。



「するわけないだろっ!!」

「だ、だよね・・・。 ちょっと想像して気持ち悪くなっちゃった・・・。」
「んなこと想像すんな、バカ!!」


自分の言い出した悪趣味な冗談ではあるが、倉田の無駄な想像力の所為でとんでもなく気分が悪くなった市川である。










『山田と市川のバレンタイン・・・かな??』 : 01 02




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