『山田と市川のバレンタイン・・・かな??』 (2)



【2月14日 : 木曜日】


三流ドラマのお決まりなパターンの如く、この日の夕方、突発のバイトが入った。
知り合いの町工場のちょっとした部品搬入の手伝いで、人が足りない時などよく市川に声が掛けられる。


『いいですよ。 数時間のことでしょ?』
「作業自体はそうなんだけど・・・」
『ああ、その後に皆で飲みに行ったりする?』
「大抵そうなる。」
『じゃあ仕方ないですね。行ってきて下さい。』

特に不満を零すこともなく山田はスンナリと了承して電話を切った。

市川にはそれが引っ掛かる。 そもそも山田が市川に予定を確認すること自体が稀だ。 それを態々一週間も前から言い出していたのだから何かがあるんだろう。 何度か山田に訊ねてはみたが、『特に何も無い』 と流された。 それもまたおかしいのだ。






「なに恐い顔して考え込んでんだ、貴弘?」
「いえ別に。」

作業終了後、当然のように皆で居酒屋に流れ込んだ。乾杯をしてまだ間もないが、既に出来上がったように真っ赤な顔をした馴染みの作業員が市川に声を掛けた。
彼は既婚者であるが、この工場の作業員の中では歳が一番近く割と話が合い、日頃からよく遊びに連れ出してくれている。

「もしかして彼女が怒ってんじゃないのぉ? バレンタインは私と過ごすべきでしょ!とかさ。」
「そんなんじゃないですって。 ていうか奥さんは平気なんですか?」

「ウチはいいの、もう。 カミさんは俺より子供にしか関心ないから。
 でも結婚前とか新婚の時はさー、イベントと記念日には注意しなきゃならないんだぞー。
 特に結婚記念日とか誕生日を忘れたりなんかした日にはだなあ〜・・・」

「あ・・・」
「ん?」
「それでした。」
「は?」
「いえ、誕生日。 忘れてました。」

「今日!?バレンタインが彼女の誕生日!? それ忘れるって・・・、お前ダブルでヤバくね??」
「ですね。」
「もう帰ったほうがいいんじゃねえの・・・?」
「そうですよね。」

慌てて帰り支度をしだした市川を彼は珍しそうに眺めていた。市川が友人よりも恋人を優先するのを見たことがなかったからである。 その視線に気付いて市川が苦笑いを返す。

「色々と面倒なヤツなんで・・・」

「そっか。 まあ、ヒステリー起こしだしたら、・・・とりあえず押し倒しとけ!」
「はは、そうします。」

些かシャレにならない冗談も笑って返して市川は早々に店を後にした。













「なんでお前は肝心なことを言わないんだ!?」

電話が繋がってすぐに市川が切り出した。殆ど逆ギレの市川の勢いに、山田は一瞬黙ってから笑い出す。

『肝心?今まで忘れてたんでしょ?それって肝心て言えるの?』
「バレンタインで騒がれるよりはまだ納得がいく。」
『バレンタインで騒いでないじゃん、俺。 まあチョコ贈り合ってイチャつくのも捨てがたいけどさ、
 100%嫌な顔されるのわかってるしね〜。』
「当たり前だ。」

『バレンタイン・イベントも拒否で、誕生日もさっきまで忘れられちゃって、俺可哀想じゃない??』

「それは悪かったって思ってるから、厭味止めてくんない?」
『あーでも、思い出してくれたみたいだからもういいです。』

あまり反省の色が見えない市川の口調にも、山田は笑ったままだった。 因みに、『もういいです』 = 『気にして下さい』 も山田にしっかり刷り込まれている。

「今どこだ?メシ喰った?」
『今は家。メシはまだ、です・・・』
「どっか喰いに行くか?」
『・・・部屋に行っていい? メシはコンビニ弁当でいいんで。』
「いつも好きな時に勝手に来るだろうが、お前は。」
『はは、それもそうですけど・・・』

山田が市川に態々お伺いを立てる時 = 市川が快諾しないようなことを何か頼む時。 快諾はしなくても大抵承諾はさせられるが・・・。

『市川さん』
「なんだ」



『”部屋に来い” って言ってくれない? ・・・で、俺の顔見て ”オメデトウ” って言って?』


山田に刷り込まれた事柄、もう一つ。(多すぎだ!) ───・・・ こういう時の露骨な溜息は厳禁。
溜息も悪態もまとめて吐きたくはなったが、まあ、今日ばかりは仕方ない。 息をぐっと呑み込んだところでツッコミが入った。

『よく堪えてくれたね、溜息。』


「んなことどうでもいいから早く部屋に来い!」


言い捨てて電話をブチ切ってから思い切り溜息を吐いた。













「イテえし重いっ!」

玄関を開けるや否や、その場で圧し掛かられて転がって床に腰を強打した市川に構わず山田が呑気な声を出す。

「あ、なんかいい匂い。」
「・・・コンビニ弁当じゃあんまりだから中華のケータリングした。」
「カシューナッツ炒めある?」
「ある」
「さっすが市川さ〜ん♪」

「食後はTop’sのチョコレートケーキ。(←山田の好物らしい)
 一番デカい正方形のやつ買ってきたから。 お前全部喰えよ?(←市川は苦手らしい)

「うそっ・・・。店閉まってなかった?」
「新宿ルミネ1のB2Fは22時まで。」
「・・・調べたの?」
「電話して訊いた。」

「今日の市川さん、市川さんじゃないみたい・・・。」
「だから忘れてたのチャラにして。」
「もちろんするけど。 ・・・ねえ、このまま、いい?」

「・・・カンベンしろよ。 とにかく腹減ったしフロ入りてえ。てか、いい加減どけ!」
「色気ねぇー・・・」
「無くて結構!」


不貞腐れ顔で市川の上から退いた山田の首を引き寄せて、『おめでとう』 を贈りながら軽く口を付けた。


確かに面倒だと思うことは多い、・・・が、この男に関しては、その面倒を仕方ないと思えるのが不思議なことで。 嬉しそうな顔を見たいと思うのもこの男が初めてのこと。
ボリュームのあった夕飯をキレイに平らげてから、一辺20センチもあるチョコレートケーキをフォークで直接切り崩して口に運んでいる時の満足そうな顔を見ているのも飽きない。

素直に、この男の一番喜ぶことをしてやりたいと思った。



「リボンでもつけてやろうか?」
「はい?」

一昨日倉田に言った冗談を独り思い出して笑っていた市川を、怪訝そうに見返す山田の顔も可笑しかったのだが・・・


「バカ。 冗談にきまっ ──・・・」
「いいね、それ。」

「は・・・?」

「もちろん 市川さんの裸に でしょ?」
「え?」


「ああ、こんなところに赤いリボンがありました〜♪」


白々しく(そして嬉々として)山田がポケットから鮮やかな朱色のリボンを取り出す。

「ちょ・・・、え!?」

「で、どこに結んで見せてくれる? あ、『首』とかって平凡な場所はナシね?」



実際に”血の気が引いていく音”というものを市川は初めて聞いた気がした。


「・・・・・・おまえ・・・、ばかだろ」
「なんとでも♪」




結局、一週間前に市川が覚えた不安は見事に的中したワケで・・・。(=山田の言うことを聞かされたワケで。)


─────・・・ どこにリボンを結んだのかは皆様の想像にお任せする。 (書けません・・・ ^ ^;)










+++ end +++
急遽決まった山田の誕生日。(少女漫画かっ)


※↓下方におまけ文がついてます。(翌日の市川と和成) よろしかったらどうぞ。




















おまけ〜♪


+ + + + + + + + + + + +


翌朝、倉田のニヤつき顔を見て市川は全てを理解した。


「やっぱりお前か・・・」

「なんのこと?」
「トボけんな。」

いつものように軽く揶揄ったつもりがキッチリ揶揄い返されただけでも癪に障るのに、その相手がよりによって(大ボケ)倉田だ。 通常よりも当然衝撃はデカい。

「くだらないことを山田に進言するな・・・。」

「市川が言い出したことじゃん。 『相手が一番喜ぶことだ』 って。
 だから 『今度市川に会う時にリボン持って行けばいいことがあるかも』 って教えただけだよ?」

「・・・・・・・・・。」

それがくだらないことだと言うんだよ・・・。



「で、どこに結んであげた?」
「るせーよ・・・。」


倉田に揶揄われるようになったら俺もオシマイだ・・・。

柄にもなく泣きたくなった市川である。





(おしまい♪)
締めが和成ってどういうこと・・・





『山田と市川のバレンタイン・・・かな??』 : 01 02





  1. コメント:2