『康太とチカのバレンタイン』 (1)
二月 ────・・・ 一年で一番寒い月。
昨日は滅多に雪の降らないこの辺りでも数センチの積雪があって、首都圏の交通機関が乱れまくりましたとか滑って転んだ怪我人が多数出て救急車フル稼働ですとかニュースで言っていた。
ま、そんなこと俺にとってはどうでもいいことだ。(コラ)
二月 ────・・・ 二十数年前のアイドルの曲が未だにTV番組内で使われちゃう月。
世のシングル男共が無駄にソワソワしちゃう月。
そして俺にとっては・・・
チカさんと公然と(?)ラブラブできちゃう日がある嬉しい〜〜月 ♥ ♥ (*≧▽≦*) キャー
だ。 クリスマスとかもそうだったんじゃねえの?とか、ようはイチャつけりゃいつでも嬉しいんだろ?とかいうツッコミはいらない。 あはは、まあその通りだからね。
・・・なんて、朝から独り浮かれまくっていた俺だった。
「キモいんだよ、この浮かれポン太。」
「誰がポン太じゃい。」
ニヤける俺を見て勝屋が暴言を吐いた。それに言い返しつつも俺の顔はやっぱりニヤけている。
「チカちゃん、帰って来るのか?」
「そうなんだよ〜、小谷君っ! 明日帰って来るんだよ。明日会えるんだよ。半月ぶりなんだよぉ〜!!」
「あ、そ。」
おいおい、人にモノを訊ねておいてその淡白な反応はねえだろ。
ま、いいけどね。俺の幸せ満杯オーラはこいつらには少々強すぎるんだろうから。 いやー参ったな〜、俺ばっかり幸せで!
しかし、俺のアホタレ思考を読み取ったらしい小谷が鼻で笑った。
「出張先でチカちゃんはずーっと男前の元カレと一緒なんだろ? 大丈夫なのか?」
痛い所を突かれて俺の幸せバルーン(何だソレ)は一気に萎む。 『元カレと一緒』 というイヤ〜な事実から極力目を背けるようにしていたのに、何故ワザワザ目の前に引っ張り出してくるんだよ。 しかもこいつ、『男前』 の部分を無駄に強調しやがった。
「だ、大丈夫に決まってるだろ・・・」
「声が震えてるぞ?」
「相変わらず性格悪いね、小谷君。 ・・・僕の幸せがそんなに憎いのかい?」
「いやいや、綺麗で大人な恋人を持つ康太君が羨ましいよ、ホント。 でも色々大変だろう?
社会人と学生じゃ生活リズムも違うワケだし、会いたい時に会えないもんな〜。
でもワガママは言えないよね。 あ、そう言えば元カレは同じ会社の同期だっけ?
康太君より長く一緒にいるんだね。 カッコイイらしいし、未だに仲いいらしいし。 ああ、心配だね。
僕にはそんな苦しい状況はとても耐えられないなぁ〜〜〜」
「こ、小谷ぃ〜・・・っ」
情けない声を上げた俺を小谷は口の片端を吊り上げて笑いながら眺めている。 この顔っ!!・・・まるで悪魔じゃないですかっっ!?
だが、小谷の言うことはほぼ正しい。だから俺も少しだけ動揺してしまう。 いや、チカさんのことは勿論信じているけれど、一抹の不安が拭えないのは事実で・・・。 異常に仲良いしな〜・・・、元カレと・・・。
漸く正月気分が抜け出した1月半ばのある日の夜、チカさんはベッドの中で九州への長期出張を俺に告げた。
「明後日からですかっ?? 随分急ですね・・・」
「えーと・・・ごめん。少し前から決まってたんだけど中々言い出せなくて・・・」
「・・・そうですか。 でも、仕事じゃ仕方ないですよね・・・。」
シュンと項垂れる俺の頬に口付けながらチカさんは 『ゴメン』 を繰り返した。 ワガママ言うわけにもいかないから耐えていたけどね。 その時は。
「普通は現地営業とSEが対応するんだけど今回はちょっと特殊でね、
本社営業とSEが行かなきゃなら ──・・・」
「ちょっと待ってッ!」
それはちょっと聞き捨てならないんですけど!? 本社営業とSEが同行!?
本社営業 = 元カレ & SE = チカさん じゃねえか!?!?
「し、仕方ないじゃん・・・」
「しかたない・・・けど・・・」
今一素直に呑み込めない・・・
昨年末辺りから九州の大口顧客が基幹システムの総入れ替えを検討しだした。通常なら現地支社営業が商談を担当するが、対象のシステムはチカさんの会社が新しく開発したシステムで、現地社員にはシステム概要が未だ浸透していないらしく本社の人間も出向くことになった。・・・つまり、営業の元カレと販促営業兼SEのチカさんで ────・・・ というようなことを丁寧に説明されたものの、平凡高校生の俺にそれがピンとくるはずもなく、『元カレと出張先でずっと一緒』 の部分だけが脳内でこだましていた。
それから数回の出張で無事受注はできたものの、導入の前段階で色々と面倒が起きてチカさんは殆どむこうに行ったきり、数日こちらに戻ってきていても俺と会う時間すら取れないという状態が半月続いていた。(←寂しすぎて元カレのことをあまり考える余裕がなかったのが救いと言えば救い)
それで明日やっと会えることになったのに。 久しぶりのワクワク気分を味わってたのに・・・
「お前ほんとヤなやつ・・・」
「ま、ヨリを戻されないように明日はせいぜい頑張るんだな。」
「ううう〜・・・」
「康太・・・小谷の毒舌はあんまり気にするな。 フラれたら俺がメシ奢ってやるからさ・・・。」
「ふ、ふられないよっ!!」
この日は、小谷の攻撃で完全に沈没した俺を勝屋が慰めるという世にも珍しい展開になった。
翌日、 『帰ってきたよ』 のハッピーメールを受け取った俺は、学校帰りにチカさんのマンションへ直行した。
顔を見るなり覆い被さってキスの雨を降らせる俺(イヌ?)の頭を、苦笑いしながらチカさんが撫でる(飼い主??)。
「康太君、重いよ。 なあ、とりあえずリビングに移動しよう? 玄関じゃ寒いし・・・床冷たい。」
「んー・・・、もうちょっとだけ。」
「あのなぁ・・・。 もうちょっとって、さっきからキリがな ──・・・、ちょっ、脱がすなよ、おいっ!!」
頭をはたかれてとりあえずリビングのソファーへと場所を移したものの、チカさんを膝の上に乗せてガッチリホールドの俺。 出張から帰ってきたばかりで疲れているチカさんを困らせてはダメだと思うのに、半月ぶりのチカさんの香りが、俺のマトモな思考を完全に麻痺させている。
「いつまでこうしてるつもりなの・・・」
「ん・・・、ゴメンなさい。 でもずっと寂しかったんだ、俺。 それに、明日また行っちゃうんでしょ?
だから今だけでも、少しでもチカさんとくっついてたい。チカさんに触ってたい・・・。」
「康太・・・」
半月ぶりの甘えんぼ攻撃(我ながら、ゲ〜ッ)に困り果てた顔をしながらも、チカさんは俺の膝の上から下りないでいてくれた。 ・・・となると当然、体内に熱が溜まってくるワケで。
毎日の電話やメールは俺の寂しさを紛らわせてくれはしたが、やっぱり生身のチカさんとは比べ物にならない。チカさんの滑らかな肌に触れていると、俺の心の幸せタンクが徐々に満たされて(勿論愛で♥)いくような感じがする。 しかし、いくら触っても満タンになってくれないのが困りもの。 駄目、ほんと。 全然触り足りない。 咎められても手が離れてくれない。 今日は駄目だって言われてたのに・・・・・ああー・・・
「こらぁ・・・」
「ん・・・」
「ダメだって・・・」
「・・・少しだけ」
「こうたっっ・・・」
「・・・・・・・・・チカさん」
「もう無理っ!!一緒にベッド行って!!」
「えっ、えええーーーっ!?」
・・・やっぱり我慢は無理だった。
「ごめんなさい、チカさん・・・」
ベッド上で正座して(←裸だから結構マヌケ)ひたすら謝る俺の隣でチカさんが突っ伏している。
「・・・・・・・・・。」
「ごめんなさい・・・」
「おまえのゴメンなさいはアテにならない。」
「ごめんなさいぃ〜〜」
「あー疲れた。寝るからもう帰れ。」
「ごめんなさいぃぃぃ〜〜〜〜〜っっ」
殆ど半泣き状態の俺を見上げて、チカさんが噴き出した。
「もういいよ。もう怒ってない。 半月ぶりに会えたんだから・・・仕方ないよな。」
項垂れていた俺の首を引き寄せて、『俺も我慢できなかったし』 と耳元で囁いてくれる。
そのまままた圧し掛かりたくなったのをグッと堪えて、拳一個分離れてチカさんの横に寝転んだ。(くっついちゃうとまたイロイロとね・・・問題がね・・・)
「ねえチカさん、仕事、いつになったら落ち着くの?」
「まだハッキリわからない。 システムが中々上手く稼動しないんだよ・・・」
「じゃあもしかして・・・、再来週もむこうに行ったままっていう可能性もアリ!?」
「・・・・・・・・・・・・。」
「ウソでしょ・・・? 再来週の木曜ってバレンタインなんだよ??一緒に居られないの!?」
「まだわからないよ・・・。 でも仕事なんだから仕方ないじゃないか・・・。」
「そうだけどっ・・・」
『仕事だから仕方ない』 を言われたら、内心どんなに不満でも俺は黙るしかない。こういう時は本当に辛い。ノホホンと学生をしている俺と立派に社会人をしているチカさんとの違いが浮き彫りになって、チカさんが物凄く遠い人のように感じるから。 早く大人になりたいと切実に思う瞬間だ。
「ゴメン康太・・・」
「ん、いいよ。 再来週は・・・、せめてバレンタイン・デーは帰ってこれるように祈ってる。 俺我慢する。」
ラブラブ・バレンタインへの期待を心の糧にして・・・・・・、 明日から また我慢するよ。
「だから、ね・・・・・・?」
「ん・・・?
・・・・・・・・・・・・え゛!? じょうだっ・・・ん゛ーーーっっ!!!!」
慌てて俺から距離を取ろうとしたチカさんの身体をガッチリ捕らえて引き寄せて、制止の言葉が飛び出す前に強引に唇を塞いだ。
チカさんの掠れた吐息としっとりとした肌を再度味わって酔っ払い状態の俺。
でも頭の片隅に 『ヨリを戻されないように頑張れ』 と皮肉った小谷の顔がチラチラと浮かんでた。
これじゃあ、頑張りすぎで(無茶させすぎで)逆にヨリを戻されそうだ・・・。 ああ嫌な予感。
この悪い予感は、この後ちょっとだけ当たってしまうんだけど・・・・・・。
『康太とチカのバレンタイン』 : 01 02 03



