ありえないだろっ 11 : 『お伽噺じゃねえんだよ』 (3)



平和だなあ・・・


病院を見上げながらこんなことを思うのも不謹慎なのかもしれないが、今は心の底からそう思うのだ。
エントランスで車椅子に乗った爺ちゃんがナースの尻を撫でて軽く手をはたかれるという衝撃的(?)場面を見てもう一度呟く。


「平和だなあ・・・」







病室の前まで来ると、真人さんの怒鳴り声と、脳天気な明人の声が聞こえてきた。 いくら同室の患者が耳の遠い爺ちゃん連中だけだって言ったって、これじゃ迷惑だろ・・・と思いつつ、とりあえず入り口で中の様子を伺う。

「大体なんで俺がオメェーにパシられなきゃなんねえんだよっ!」
「仕方ねえじゃん。俺ここから動けねぇんだし。 プリンぐらい文句言わずに買ってきてくれよ。」
「だから、一度に言えっつってんだよ! さっき頼まれた漫画を買ってきたばかりじゃねえか!
 人に迷惑ばっかりかける性格直しやがれ。根性入れ替えろっ!!」

「いいぜ、兄ちゃん。それぐらいの悪態は許してやるよ。
 俺は生き返って心の広い男になったんだ。リニューアル・オープンだよ。」
「おかしな日本語使うな。 ああ、生き返ってもバカだけは治らないんだな。
 念のためにもう一遍頭の検査でもしてもらったらどうだ?」

「・・・いいんだよ兄ちゃん。兄ちゃんが俺のこと愛してるのは知ってるから。」

周りの爺ちゃん連中は大笑いだ。このところ明人と真人さんのこの掛け合いが爺ちゃん連中のいい見世物になっている。
『相手にしてらんねーよ・・・』、入り口に俺の姿を認めた真人さんが頭を振りながら病室を出て行った。
あんなこと言いながらも、きっと明人の好きなプリンを買いに行ったんだろう。
真人さんがどれだけ明人を心配していたか、自分も不安なのに周りの人間の気が少しでも晴れるようにと心を砕いていた。その全部を明人は間近で見ていたからこれぐらいの微笑ましい(?)掛け合いで済んでいるのだ。以前の速水兄弟ならここで盛大な殴り合いに発展している。 てことは、ほんとに明人は”リニューアル・オープン”をしたのだろうか? ・・・些か疑わしい。


あの日の夜中、明人の容態は確かに急変した。 ・・・いや、好転したと言うべきか。

それまで全く異常なかった脈が突然乱れ、いきなりの心停止。 俄かに周りの動きが忙しなくなった途端、心臓は再び正常に動き出し、数秒後にパッチリと目を開けた。

人騒がせと言うか何と言うか。 普通に目覚めりゃいいだろうが・・・。
おまけに目覚めた時の第一声が、 『マコ!プリン喰いたい!!』 だったそうだ。 俺とプリンは同列か。
連絡を受けて慌てて駆けつけた俺に、真人さんが腹立たしげに語るのを聞きながら軽い眩暈を覚えた。

その後、なんだかよくわからない(聞いたけど忘れた)検査にあっちこっち引っ張りまわされていたけど、それのどの検査でも全くの異常ナシ。後遺症の兆候なんかも全くナシ。 医者は首を傾げるばかりの模様。
結局あんな風に眠り続けていた原因は(勿論幽体離脱の原因も)わからずじまい。


戻ってきてくれたのは嬉しいんだけどさぁ・・・、無事だとわかると逆に腹が立ってくるよな。 あれだけ皆を心配させてさ、俺のことも振り回してさ。 前よりも脳天気になってる気がするし。



同室の爺ちゃんたちにペコペコと頭を下げつつ(何故俺が!?と思わないこともないのだが・・・)明人のベッドサイドに寄ると、途端に顔を顰めた。 コイツ、生き返って我侭放題だな・・・。


「おっそい、マコちゃん!」
「うっさい。毎日来てやってるだけいいと思え。 それとなあ、あんまり真人さんを怒らせるなよ。
 お前が意識不明の間、真人さんは大変だったんだぞ。」

唇を尖らせてそっぽ向いて俺の苦言は無視である。 コイツは俺が真人さんの肩を持つのが一番嫌いらしい。 ったく、ガキかよ・・・。 視線でベッド周りのカーテンを引けと言われて嫌々ながらもそれに従った。


「兄ちゃんのことはどうでもいいけどさ、お前なんか大事なこと忘れてないか?」
「はぁ? 何を?」

いつかは来ると思っていたが、今日来たか。 すっトボけてみたが、それで大人しく諦める明人ではない。

「ほらぁ〜、してくれることがあるんじゃないの?俺にぃ。
 約束通り戻ってきたじゃん? ご褒美がいるじゃん? 熱い抱擁とキスが希望じゃん??」

「ば、ばかじゃねえの?お前っ・・・ ほんとにもう一回精密検査してもらった方がいいんじゃね?
 つか、声デカいよ・・・。」

「照れるなよ、マコちゃん♥」
「気色悪ぃんだよっ! 誰がマコちゃん、・・・・・・っ!」


気付いた時には既に俺は明人の腕の中にいた。

心臓が跳ね上がって焦ったのは一瞬だけ。 身体に巻きつけられた腕でぎゅうぎゅうと強く締め付けられて眩暈がした。(単に呼吸が出来なくてだ!) 普通さ、暫く寝たきりだと筋肉って衰えるよな?しかもあちこち骨折なんかしてたら力なんて入らないはずだろ?? なんでコイツはこんなに元気一杯なワケ!? 

「ぐ、ぐる゛じぃ・・・」

さすがに酸素が足りなくなって、生命の危険を感じた俺は思い切り腕を振り上げた。


「ってぇーーーっ!」


鈍い音と共に、頭を抱えて呻く明人を見て我に返った。 どうやら俺の腕は明人の頭にクリーンヒットしたらしい。


「だ、大丈夫か・・・・・・?」
「・・・・・・・・・。」
「おーい、明人・・・?」

「・・・ひでぇよ、マコちゃん・・・俺、怪我人なのに・・・。 少し前まで生死の淵を彷徨ってたのに・・・・・・。」
「ごめん・・・。 大丈夫か?」

「駄目かもしんない・・・。 なんか、眩暈が・・・・・・」


焦ってナースコールを押そうとした俺の手を、明人が遮った。


「嘘。 平気だから。 誰も呼ばなくていい。」

「そういう冗談やめろ・・・。 心臓止まる。」
「ごめん。」

いきなりシュンとして、俺の肩口に静かに頭を乗せる。
そうやって神妙にしててくれればさ・・・俺だって約束の一つや二つ遂行してやろうかな〜なんて気になるのに・・・ (実際に遂行するかは別である。)


「マコちゃんが約束守ってくれればすぐ元気になる。」


ほらな、神妙な態度は1分も続かねえんだ。 コイツは、ほんとに・・・


「ほらぁ〜、王子様はお姫様のキスで元気になるんだよ?」
「そんな妙なお伽噺をどこの子供が読むんだ!? ってか、誰がお姫様だっ!!」

「じゃあ、いいよ、どっちがお姫様でも。 はいはい、俺がお姫様ですよ〜。
 王子様〜、早くキスしてくださーい。」


だからっ! どこの世界に強引にキスをネダるお姫様がいるんだっつーのっ!!
ああもう、コイツほんっっとに、ありえないっ!!

しかし、人の顔を覗き込んでニコニコ笑ってるのを見たら、文句を言う労力が無駄に思えた。


「目ェ・・・瞑れ。」



大人しく目を瞑って待っている明人に軽〜くキスをしてから、思いっっ切り両頬を引っ張ってやった。

その後、プリンを買って戻ってきた真人さんに真っ赤になった頬を笑い飛ばされて不貞腐れた明人を見てちょっとスッとしたけどさ・・・。


退院したらどうなるんだろ? 俺、逃げ切れんのかな?? 口で言い合ったら絶対丸め込まれるしな。

てゆーか、こんなこと考えなきゃならなくなったこと自体異常だよ・・・。



ほんと、ありえない・・・。










+++ end +++
ほーんと、あっりえないホドあっさり完結。・・・ですが
この後アキsideでおまけ一話。よろしければお付き合い下さいませ。





backありえないだろっ TOPnext (おまけ)

まあよかったよ、と言う方は
にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
ポチッと押してやって下さい♪




  1. コメント:0