ありえないだろっ 02 : 『なくす前に気付ける幸運?』 (1)
開け放たれた窓から入り込む風に、保健室の白いカーテンがヒラヒラと揺れている。
ベッド端に腰掛けて俺は呆然とそれを眺めていた。
何だったんだ、あれは・・・?
椅子から転げ落ちて、目を離した一瞬の隙に姿は消えていた。
俺が見たのは幻?・・・だよな。 やけにリアルだったけど。
幻聴も聞こえた。 幻聴って、すげーハッキリ聞こえるもんなんだな・・・。
結局、腰を抜かしたように床に這いつくばっていた俺は教室を追い出された。いつもは授業態度に厳しい担任が、授業中に大声を上げた俺を咎めもせずに保健室で休めと言ってきたのである。明人のことで相当おかしくなっているであろう俺を気遣ってのことなんだろうが・・・。 俺の席の周りの奴らが俺を見る目も憐憫の情に溢れまくっていて、あれはちょっと居た堪れない。明人の状況がいかに悪いかを改めて突きつけられているような気分になる。
確かに全然いい状況じゃないのかもしれないけど・・・・・・。
でもよく言うじゃないか、
リゾート地へ向かうウキウキ脳天気な客を乗せた飛行機のほうが落ちる確率が低いって。
きっと陽の気のパワーってもんがあるんだ。 あれと一緒だよ。
俺がここで鬱々と陰の気を撒き散らしてるのは、明人にとっていいことじゃないんだ。
些か的外れのような気はするが、それぐらい埒のないことでも考えていなければ本当に神経が参ってしまいそうだった。
とにかく幻視も幻聴も全て寝不足の所為にすることにして、さて、もう一度授業に戻ろうと (いつもなら大喜びでサボらせてもらうんだけどな・・・きっちりノートを取ることが今の俺の使命のように思えていたのだ)
ベッドから立ち上がりかけた時だった・・・・・・
「あんなに怖がらなくてもいいじゃねえか。」
耳元で響いた聞き慣れた男の声に驚いて、再び大声を出しそうになった俺の頭を抱え込むように腕で口を塞ぐと、もがもがと意味不明な音を発する俺のことなど全く無視して・・・、宙を見つめて・・・、のんびりと・・・
─────・・・ 明人が呟いた。
「傷付いちゃうよ、俺。」
必死で息を吸い込もうとしているのに、鼻から入ってくるのは明人の匂いのみ。
嬉しい(?)のか、苦しいのか、パニックを起こしかけている俺の脳みそでは判断できなかったが、さすがに酸素が足りなくなってきてバンバンと明人の腕を叩いた。
「ああ、苦しい? 悪ぃ悪ぃ。 腕離すけど、大声は出さないでくれよ?」
涙目になりながら素直にこくこくと頷くと、若干疑わしそうな目で俺を見ながらもゆっくりと腕を離した。
そして、
『てめっ・・・っぶっ』 解放されたと同時に怒鳴りつけようとした俺の顔面には、今、大きな羽根枕が押し付けられている。
「マーコちゃん、ちょっとは人の言うこと聞きなさいよ。」
「マ、マコちゃんて呼ぶなっっ!! おっ、おっ、お前はッ・・」(←一応小声)
「うん、わかったからちょっと落ち着こうね。」
怒りでマトモに話せなくなっている俺の神経を明人の呑気な物言いが逆撫でする。
落ち着けだと!? これが落ち着いていられるか!?
「ふざけるなよおまえ!! なんでこんなこと・・・・・・ッ」
「どうかしたの?大声出して。」
ヤバイ、と思う間もなく保健医が仕切りのカーテンを開けた。
俺はベッドの上に中途半端に転がされ、明人は俺に乗り上がるような格好で俺の口を押さえている。
どう弁解したら・・・・・・そこで俺の思考はフリーズしてしまった。
「誠。 説明するから、とにかく保健室を出ろ。」
俺の口を覆っていた手をゆっくりと離しながら明人が言った。
保健医は心配そうな顔をして俺を見ているだけで、この可笑しな状況を追求する気はないらしい。
それも妙と言えば妙だったのだが・・・。その辺を気にする余裕がその時の俺には無かった。
「大丈夫? 嫌な夢でも見ちゃった?」
「・・・・・・いえ・・・。何でも・・・ありません・・・。 授業に・・・戻ります。」
「でも真っ青よ??」
「平気です・・・。 勉強、遅れたくないので・・・」
「マコの口からそんな言葉が出てくるとは。」
苦笑いした明人を思い切り睨みつけると、ヤツは視線を逸らしてわざとらしく肩を竦めた。
結局、明らかに様子のおかしい俺を気遣う保健医を振り切って、逃げるように保健室を後にしたが。
あの保健医は、俺の上で俺に話しかける明人の低い声もその姿も認識してはいなかった・・・。
ワケが、わからない・・・ なんなんだよ、これ・・・!?
混乱したまま、俺は数歩前を歩く明人の背中を追っていた。
(続く)
今にBLになるハズだ・・・。
今にBLになるハズだ・・・。
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