ありえないだろっ 03 : 『なくす前に気付ける幸運?』 (2)



人間の脳というものは実に順応性に優れ、且つ柔軟性に富んでいる。

自分の理解の範疇を遥かに超えた事象が起きた時、自分の都合の良いように解釈する機能、及び必要以上に追求しない為のストッパーのようなものが備わっているらしい。精神を壊さない為の一つの防衛手段とでもいうのか・・・。
俺は正に人類の脳の神秘を存分に体験している。

・・・とまあ、そんなことはどうでもいい。


俺と明人は今、普段滅多に人が寄り付かない資材倉庫内に居る。

施錠されていた筈の資材倉庫に何故入れたか? 俺の脳はその理由の追求を拒んだ。
目の前で明人が壁を通り抜けて内側から鍵を開けたという一連の摩訶不思議な光景を、スーパーイリュージョン・ショー☆を見るかの如くに処理した。

・・・って。 だから、そんなことはどうでもいいんだ。


事故直後から今までのことを淡々と抑揚もつけずに話す明人を前にして、俺は割と冷静だった。
ま、脳みそがマトモに稼動してなかっただけだけど。


「つまりは・・・、お前が事故に遭ったのは本当で、ちょっとヤバイのも嘘じゃなくて、
 これは親・兄弟、病院、学校、周囲の全てを巻き込んだ大掛かりなドッキリとかじゃなくて、
 おまけに今ここで俺と話しているお前は実体じゃない・・・・・・、と、そう言いたいのか。」

「何でそんなアホなドッキリを俺がお前に仕掛けなくちゃならないんだ。」


明人が憮然として答える。
なんだよ、ドッキリ・・・だったらいいなあ、と、かなりの無理があるのは承知で言っただけじゃないか。
だってそうだろ?こんな話を 『ああそうですか』 と素直に受け入れられるヤツなどいるワケがない。いたら是非お会いしたい。


「・・・・・・じゃあ、やっぱり明人は死んだのか? お前は・・・幽霊?」
「こらこらこらこら、勝手に人を殺すんじゃねえ。 生きてるよっ、病院で寝てるけど。」
「ね、寝てるって・・・。 だったら、何??何でこんなことになってんだ!?」

「知るか。」


結局、明人自身も頭の可笑しくなりそうなこの状況を上手く説明できないようで。


「理由なんて俺が知るワケねえだろ。 気付いたらこんなんなってたんだよ。
 幽体離脱って言うの? ははっ、なんか俺スゴくね?」


先程までの険しい顔をアッサリ崩してヘラリと笑う明人を見て、俺の頭のどこかがブチりと切れた。


「『ははっ』じゃねえよっ!! なんっっでお前はそう脳天気なんだ!?
 なあ、今どんだけ大ゴトになってるか、お前知ってるか!?
 つか、幽体離脱!? カンベンしてくれよ・・・冗談だって言ってくれ!!
 あ゛あ゛〜〜〜っ、俺、今起きてる?実は寝てるのか!?寝惚けてるのか!?
 誰でもいいから、ちゃんとわかるように説明してくれよ〜〜〜、頭おかしくなるッ!!!」

「落ち着け、マコ。」


頭を抱えてしゃがみ込んだ俺の両肩を掴んでガクガクと揺する。 脳揺れるっての!!



「あのさぁ、お前が怒るのも困るのもわかるんだけどさ、俺だって可哀想だと思わない?
 車には突っ込まれるわ、意識不明の重体で病院に縛り付けられてるわ、
 実体ないまま浮遊しちゃってるわでさ。 戻ろうとしても戻れないし・・・
 ヘコんでても仕方ないと思うから笑ってるけど、俺だって混乱してるんだよね、一応。」

「そ、それは・・・・・・」


そうかもしれない。そうかもしれないけど・・・。



でも、うん。 まあ、そうだよな・・・。本人が一番困惑してるに決まってるよな。


「・・・・・・実体ないって言うけど、お前俺に触ってるじゃん。」

「それが不思議なんだよ〜マコちゃん。」
「マコちゃん言うな!」
「壁とか通り抜けちゃったりしちゃってさ〜、スゲーじゃん?今の俺。
 でも、物には触ろうと思えば触れるんだけど、人には触ろうとしても触れないんだ、全然。
 俺の姿も見えてないし、声も聞こえないみたい。 ・・・お前以外にはね。」


「えっ!?  おっ、俺 ・・・・・・だけ!?」

「そう。お前だけにしか触れないし、お前だけにしか見えないし、お前だけにしか俺の声は聞こえない。
 全部、お前だけ。」

「・・・・・・・・・・・・。」


別に怪しい意味じゃないんだろうが・・・、その時だけ妙に真面目な顔に戻して俺を見つめながら言いやがるから、俺の心臓は勝手に忙しなく動き出した。 両手が置かれた肩が熱い。何やら胃の辺りがモゾモゾする。 まるで愛の告白をされているような?? ・・・・・・いや、ありえないありえないありえないありえない。
大袈裟に肩を揺すって、明人の手を振り落とした。


「俺の本体可哀想なことになってるしさ、元に戻れないのも気持ち悪いっちゃ気持ち悪いんだけど、
 まあ、ヤなことばっかじゃねえなぁ〜みたいな・・・」


どうせまたアホなことを言いだすんだろうと、突っ込まずに流そうとしていた俺だったが・・・


「マコちゃんがどんなに俺のこと好きかわかったし。」

「はあ!?」

「だから〜、お前が俺を求める気持ちが強すぎてだな、俺はお前の元に引っ張られてしまったんだよ。
 それ以外考えられないじゃない? うん、そうだ。そうに決まってる。」


真剣な顔をして腕組みしながら一人頷いている明人。 呆れて物が言えないとは正にこのことだ。
しかし・・・・・・、それかなり間違ってないか? ”俺がコイツに”じゃなくて、”コイツが俺に” 執着してるから俺の所に来ちゃったって考えるのが普通じゃないのか??? と思ったところでふと我に返った。

男同士で執着うんぬんは明らかにオカシ過ぎる・・・・・・。


「んなくっっだらないことはどーーーでもいいけど、
 結局お前の具合はどうなの? 良くなるんだろうな?? いつ目が覚めんだよ!?」

「くだらないって・・・、冷た〜い、マコちゃん。
 てか、そんなん知るかよ! お前病院に行ったんだろ? なんにも話聞いてないワケ??
 なんで事故に遭って意識不明の本人が自分の容態説明しなくちゃならないんだ!?」

「み、みんな混乱してたんだよ、昨夜は・・・。
 真人さんが一生懸命説明してくれようとしてたけど、真人さんだって動揺してたし、
 俺だって落ち着いて聞けるような状態じゃなかったもん。」


「心配で?」

「そりゃ心配するだろ。当たり前じゃん。」
「ふ〜ん・・・・・・」
「『ふーん』じゃねえよ。他人事かっつうの。 大体お前なんで事故になんか遭うワケ!?
 どうせボケっとイイ女ウォッチングでもしてやがったんだろ?
 そんなんだから車に突っ込まれるんだよ! この色ボケ!タラシ!!天罰だッ。」
「酷い・・・・・・マコちゃん。」
「だからマコちゃんて呼ぶなってばッ!!」


床に二人して座り込んで、顔を突き合わして実に低レベルな言い合いをしている俺たち。
あまりにもアホらしい。・・・けど、不安はまだ残ってて。 だって、肝心なことがハッキリしてない。



「なあ・・・、死んだり・・・しねえよな?」



「死なねえんじゃねえの? つか、まだ、死ねねえ!! 死んでたまるか。」


明人が胸元で握り拳を作ってキッパリと言った。 力強く言ってくれると俺もホッとする。
この異常事態に対する的確な説明も欲しいけど、やっぱりこの言葉が一番欲しかったワケで。

明人(本体)の状態は全く変わっていないけれど、ワケのわからない状況だけれど、俺はこうやって明人と話せている。  心配で心配で、気が狂いそうだった昨夜とは違う。 今の方がずっといい。

そう思ったら、何だか急に・・・・・・、気が抜けた。



「・・・俺・・・さ、お前が起きたら、・・・謝んなきゃって、思ってて・・・」


「何を?? つ〜か、マコ、いきなり寝に入り始めるなよこんな所で・・・って、おいっ!?」


それはわかってるんだけど、まだ言っておかなきゃならないことがあるんだけど・・・、俺の意志に反して瞼は下がる。 明人の声もどんどん遠のいてゆく・・・。


ごめん。  俺、もう限界・・・。      眠い・・・・・・


肩が軽く揺られていたけど、暫くしたらそれも止んだ。 目が完全に閉じてしまった直後、明人の匂いが俺の周りをホワっと包んで。  なんか、安心するなあ・・・ってボンヤリ思ってたら、今度は温かくて柔らかい何かが頬や唇に触れた。


これって・・・・・・  ん? コイツ、どさくさまぎれにヘンなことしてない!?


・・・でも、それももうどうでもいいや。

何か気持ちいいから・・・。



明人の鼓動を聞きながら、明人の体温に包まれて、俺は深い眠りに落ちた。





(続く)
それっぽく・・・なってきた、かな?





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