ありえないだろっ 05 : 『眠れる森の大馬鹿者』 (2) 【side-明人】



布団に入って10分程すると、誠がモゾモゾと寝返りをうち始める。
どうやら傍に人の体温を感じると落ち着くらしく、大抵俺のほうに擦り寄ってくる。 蹴り飛ばせと言うが、そんな勿体ないことが俺にできるはずはなくて。
俺の腕の中で目覚めた初日は、驚きすぎたのか、飛び退った勢いで派手に頭を壁に激突させていた。
俺もさすがに腕枕は怪しまれるかと思ったのだが、『お前が寄ってきた』と白々しく言い張ってみたら不満顔をしつつもアッサリと反論を呑み込んだ。始めに寄ってきたのは誠だが、調子に乗って抱き込んだのは俺なのに。 いいね、マコちゃん。俺の言うことを素直に真に受けてくれて♪
というワケで、結局今夜も誠の身体を必要以上に引き寄せることになる。一晩中、かなりの忍耐を強いられることがわかっていながらも。

誠が指摘した通り今の俺は眠気を感じない。食欲もない。 だったら他の欲も感じないでいてくれればいいものを、誠を腕に抱いて寝ている状態で俺の下半身はその欲を痛いほど主張する。
誠の寝息が首筋にかかる度に、頬が肩に擦り付けられる度に、体内に邪な熱が溜まってかなり厄介だ。
このまま欲に任せてしまおうか・・・なんて考えたりもするが、スヤスヤと気持ちよさそうに眠っているガキみたいな顔を見るとそれもできなくなる。 いくらなんでも『お前が誘った』は通用しないだろうしな。

どんな夢を見てるんだか、誠の寝顔はいつも幸せそうだ。悪夢でうなされないだけいいけれど。起きている時は俺の心配ばっかりしてるからな。他人のことより自分のことを第一に考えりゃいいのに。
ひたむきと言うかなんと言うか・・・何事にも一生懸命になるのはいいことだが、誠の場合大抵空廻っている。要領悪くて、人の心配ばかりして。この先ちゃんとやっていけるのかなぁなんて、親でもない俺の方が気を揉む。
あれは誠に付き纏い始めて何日目のことだっけ? 元通りになる方法を探そうって真剣に言った誠の言葉を聞き流していたら泣きそうな顔をした。 どこかの高名な祈祷師のところにお祓いを頼みに行くと言い出した時は止めるのに苦労した。俺は別に何かに取り憑かれてるわけじゃないっての。

実体のないままフラフラとしているこの状態がよくないことぐらいわかってる。俺だって全く不安に思ってないワケでもない。 ただ、誠よりは心配してないというか。 根拠は全くないのだが、何となく『大丈夫』な気がするんだよな、俺の場合。

でも、もし万が一元に戻ることができなかったとしたら・・・、背後霊みたいに一生誠についてまわるのもアリかな、なんて考えたりもした。

誠が誰かと恋愛して、結婚して、子供作って、平凡ながらも幸せな家庭を築く。
それを傍で見守る俺・・・・・・? ははは。










冗談じゃねえ。


誠が誰かと恋愛して結婚?
───── んなの徹底阻止に決まってんだろが。

子供?
───── 俺と誠の子ならさぞかしカワイイだろうさ。 けっ、ワケもわからん女の遺伝子なんて要らん。

幸せな家庭・・・?
───── 俺と築きゃいいんだ!っての。


とまあ、これが俺の本心で。

相当イカれてる発想だと思う。自分でも。 誠のことが好きなら、誠の幸せを願うのが正しい道なんだろう。 それもわかってる。 でも無理なのだ。 誠の隣に俺以外の誰かが並ぶなんて、想像しただけでも腹が立つ。憤死しそうだ。 どんだけ傲慢で自分勝手なんだと我ながら呆れるが、この先他の全てを諦めなくてはならなくなったとしても、多分誠のことだけは諦められない。 正直もう諦め方がわからない。

小学生の頃から、誠は可愛かった。外見はそこら辺に居るガキと大差ない(寧ろ地味だった)が、俺の後をひたすら付いて回って、俺のマネばかりして。友達というよりは弟みたいな感じだった。
中学に上がる頃にはアイツも自立して、さすがに弟みたいじゃなくなったけど、替わりに”対象”になっちゃったんだよな、俺の、アッチの。 どこからどう見ても男だし、微塵も女っぽいとこなんかないんだけど、あの時思い浮かぶのはいつも誠だった。
今でこそ開き直って悪びれもせず堂々と誠をオカズにしているが、初めの頃は酷く狼狽えた。 間違った感情を正そうと、色んな女と付き合ったりした。それこそ手当たり次第に。 妙な感情を抱かせる誠が悪いのだと勝手に思い込んで当り散らしたこともある。誠にとっては随分理不尽なことだったはずだ。
自分で思い返してみても、あの頃の俺は相当嫌なヤツだったと思う。見放されて当然のような無茶を平気でやっていたが、誠は俺から離れて行ったりはしなかった。それどころか俺の悪評や噂を一つ一つ消して回っていた。 ほんとに、どこまでもお人好しなヤツ・・・。

でも、そんな誠のことをどうやって諦めたらいいんだ? 誰か教えて欲しい。



「・・・う・・・・・ぅん」

俺にしては珍しく神妙に考え込んでいたら、誠がモゾモゾと身体を動かし出した。
寝にくいのかな? 寝苦しい?
起こさないようにそっと肩を抱え直して、子供をあやすみたいに頭頂部や額や瞼に(唇は自主規制)軽いキスを繰り返すと、安心したのか、またスースーと寝息を立て始めた。

俺の気も知らないで・・・  


あーもう、無意識で鼻先を俺の首に擦りつけるの止めてくれよ。 それでなくてもキテるんだから。

それにしても、メチャクチャご機嫌な顔してない? ほんと、どんな夢みてるんだろ?
俺の夢・・・ならいいけど、んなワケないよな。 俺が出てたらこんな顔しないだろうし・・・


なんて柄にもなくヘコみかけた時に・・・



「・・・・・・あき・・ひと・・・」


突然首筋で囁かれて、
元々脆い俺の理性は波打ち際に作られた砂山の如く呆気なく崩れ去っていった。





(続く)
脆すぎ・・・





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