ありえないだろっ 06 : 『眠れる森の大馬鹿者』 (3)
何かが俺の素肌を撫でている。 くすぐったいような、気持ちいいようなヘンな感じ。
濡れた物が胸元をつつ〜っと這っている気もする。
あー、鎖骨の辺は止めてくれないかな。 やっぱりくすぐったい・・・。 少し身を捩った。
妙な感覚の元を確認しようにも瞼が上がらない。 それに、頭の中に淡い靄がかかって熟考を阻止してる。
起きた方がいいんじゃない?と顔を顰める俺と、心地いい気もするでしょ?浸ってなよ。と囁く俺。
難しい選択だなあ・・・。
「・・・・・・は・・ぁ・・・」
ん? 今の艶かしい吐息の発生源は・・・・・・ 俺? え!?
チュパっていう生々しい音と感触で、いきなり俺は覚醒した。 のだが・・・
「何やってんだ・・・お前?」
状況が飲み込めなくて、とりあえず俺の上に覆い被さっている明人に訊いた。
「あ、起きちゃった?」
「なに・・・やってんだ??」
「何って、見ての通り。」
見ての通りって・・・、Tシャツは首まで捲り上げられて胸元が露になっていて、明人が俺の上に居て、ついでに身体を撫で回してて、胸に吸い付いてて・・・。 これって、何??
頭上にクエスチョンマークを散らしている俺に、落ち着き払った声で明人が言った。
「マコ、やっぱり溜まってただろ。」
「え・・・? え!?」
太腿をグイッと俺の股間に押しつけて、熱の状態を確認させた。
え? えええ〜〜っっ?? 俺勃ってんの!? なんでっ!?
「お前、俺の足に擦りつけるんだもん。」
「う゛そっっ!!」
自分の痴態を告げられて絶句する。 こっ、擦りつけた?? 恥ずかしさのあまり泣き出しそうになった。
でもなんで?? 確かに溜まってたかもしれないけど、出したいなんてこれっぽっちも思ってなかったのに。
さっきまで夢見てたけど、反応するような、そんな色っぽい夢じゃなかったのに・・・
目を白黒させている俺に、明人は追い討ちをかけるような台詞を吐く。
「それってやっぱ俺の所為かなぁって。 だから抜いてやろうかなぁって思って。」
「は!? え、いいよ、そんなことしなくてっ!!」
「でもコレどうすんの? ツラくない?」
今度は直に手でヤワっと握られて、思わず妙な声を出してしまった。 にっ、握るなよぉ〜〜〜っっ
「あっ・・・っん やっ、だから、じっ、自分で出してくるからっ、トイレでっ!!」
「ま、遠慮しないで。」
「ちがっ、遠慮じゃなくてっ!・・・ちょ、止めろよっ!!」
俺の制止のなどお構いなしに、明人が首筋に吸い付いた。拒絶しているはずの意志に反して、心臓はドクリと雄芯に血液を送り込む。
必死でもがいて明人の下から逃れ出ようとしたが、全体重をかけている明人はビクともしなかった。
それどころか喚く俺の口を手で塞いで言い放った。
「いいから。 黙って大人しくしてろ。」
全然、ちっともよくねえよっ!! 頭の中では叫んでいたのに、声にならなかった。もし口を塞がれていなかったとしても、声が出せたかどうか自信がない。 若干の体格差はあるが、一応男同士。死ぬ気になれば抵抗ぐらいできるだろうに・・・、真面目な顔で目を見据えながら言われて、俺の身体は動きを止めてしまった。 小刻みに震えだしたのは、恐怖からか羞恥からか、それとも屈辱からか。 多分その全部がごちゃ混ぜになって、どう対処していいのかわからなくなっていたんだ。
明人の舌が首筋を這い下りていくのがわかる。ぬめるような感触が気持ち悪くて全身の肌が粟立った。 口を覆っていた手が離れて剥き出しになった胸や腹を撫でていく。 下着の上から中心を緩く擦られて、反射的に身体がビクリと跳ねた。
「明人・・・、止めてくれよ。 嫌だよ・・・。気持ち悪い。」
「でもお前、ちゃんと反応してるじゃん。」
「嫌だ・・・止めてよ」
改めて確認させられなくてもわかるくらいに中心は反応している。明人の手が少し動いただけでもどんどん膨れ上がっていく。 でもそれは単に物理的な刺激への反応であって、俺の意志や感情とは無関係のもので。
嫌だ、止めてくれ、を弱々しく繰り返す俺の口をまた手で覆い、明人が耳元で低く言い放つ。
「あのさ誠、拒まれると余計その気にならない?男って。」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「口でしてるわけじゃない。手を使ってるだけだ。 こんなの、自分でするのと変わらないだろ?
嫌なら俺だと思わなければいいじゃん。 目を瞑って、出すことに集中してろよ。」
滅茶苦茶な言い様だ。自分でするのと変わらないと言うのなら、尚更明人がこんなことをする必要はないはずだ。される意味も理由も全くわからない。変だ。おかしい。 反論はグルグルと頭を巡る。ただ発することができないだけで。 結局馬鹿にされてるのか・・・そう思ったら目の奥が熱くなって息苦しくなった。
抵抗を止めてしまった俺に明人は黙って刺激を与え続けた。 固く目を瞑って両手で耳を塞ぎ、唇を噛み締めて俺はそれを受けた。 他人のやり方など俺は知らない。でもきっと自分と変わりないんだろう。それを証明するように明人の手は淀みなく動いている。敏感な部分を指で辿り、そしてゆったりと幹に絡めて、絶妙な力加減で擦り上げて。 濡れた芯の上に沿う手の動きが滑らかになっているから、見えなくても、音が聞こえなくても、自分の状態がどうなっているのかはっきりわかった。
耳を塞いでいると、荒くなった呼吸音が頭の中に篭って余計に響く。それに煽られるかのように腰が震える。 嫌だなんて言いながら、身体は情けないくらい真逆の反応を示していて。
でもきっとその方がいい。 諦めてしまえば終わる。 羞恥も嫌悪も屈辱も、訳のわからない虚しさも、湧き上がる全ての感情を頭の隅に追いやって、ただ、達くことだけに意識を集中させれば。
不本意ながらも行為を受け入れてしまった後は早かった。 明人が施す刺激に呼応して、腰元にジワジワと拡がっていく強烈な甘い痺れ。膨れ上がる射精感。 もうすぐ終わる。やっと終わる・・・ そう思ってホッとした直後、小さな呻きが口から漏れて全身に力が入り、腹が小さく痙攣したのと同時に俺は熱を吐き出した。
上昇していた体温が呼吸をする度に指先から急速に冷えていく。ベッドに横臥したまま動けなかったのは吐精した後の気怠さからだけではない。 同性にこんなことをされてショックなのは当たり前で。 でも、この時の俺にとってそれは大した問題じゃなかった。 男の下半身なんて即物的なものだ。男だろうと女だろうと、それが誰だろうと、触れられれば反応する。 アイツが言った通り、余計な思考は脇に追いやって、動作に集中してしまえばそれで済む。 それがハッキリわかっただけ。
どうでもいいんだ、そんなことは。
問題なのは、 ・・・・・・ 『明人がした』 ということ。
嫌だって、止めてくれって・・・・・・俺は何度も言った。 でも聞き入れてはくれなかった。
明人に背を向けて、肩に触れようとしたアイツの手を無言で払った。
「ごめん、マコ。 そんなにショックを受けるとは思わなかった。」
「・・・・・・・・・・・・。」
そんなわけはないだろう。 誰にだってわかることじゃないか。
結局・・・ 俺がどんなに情けない気分になろうと、惨めな思いをしようと、明人には関係ないんだろう。
いや、きっとそれが面白いんだ。 明人は、俺のことを・・・ 揶揄いのネタぐらいにしか思ってないんだ。
親友だなんて思っていたのはきっと俺の方だけ。
俺にとっての明人の存在の意味と、明人にとっての俺の存在の意味とでは天と地ほどの開きがある。
これでそれがよくわかった。
「マコ・・・?」
「触るな。」
やっとのことで吐き出した自分の一言に弾かれたように視界が滲んだ。
涙が零れ落ちないように瞬きを堪えて、声が震えないようにゆっくりと息を吐いて・・・、明人に言った。
「もうお前の顔なんて見たくない。 二度と俺の傍に近寄るな。」
(続く)
あーあ・・・
あーあ・・・
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