ありえないだろっ 07 : 『それでも、どうしても、君のそばに』 (1)



あの夜から、明人は一切俺の傍に寄ってくることはなくなった。 傍に寄るどころかこちらを見ようともしない。 昼間は教室の隅でボンヤリ授業を聞いていて、学校が終わると直ぐに居なくなる。後をつけようがないのでどこで何をしているのかはわからないが、病院の面会時間に俺が病室に行った時は大抵窓辺で暗くなった外を眺めている。俺が入室した途端、出て行ってしまうけれど。



言い過ぎたんだろうか?

どう考えても被害者は俺だと思う。
・・・でもあそこまで言う必要はなかったんじゃないだろうか? 俺も冷静じゃなかったし。

ここ数日そんな風にばかり考えてしまっている。

顔も見たくない、傍によるなと言いながら、俺の目は明人を追っている。姿が見えない少しの時間でさえも不安になるし落ち着かない。 結局、こんなことになって動揺しているのは俺だけで。

ガキの頃からそうだった。 つまらないことでケンカして口をきかなくなることなど日常茶飯事。そして謝るのは常に俺。 明人が俺に話しかけなくなって、俺を見なくなって、俺に構わなくなる。今と同じ感じ。一緒に遊ぶ友達は他にもたくさんいたのだから寂しくはなかったはずだし不都合もないはずだった。けど、俺は毎回かなりのダメージを受けていた。 数日も経たないうちに、どちらが悪いとかそんなことはどうでもよくなってしまう。ただ妙に心細くなって、耐え切れなくなって謝ってしまう。俺の明人への精神的依存度は今も昔もかなり高い。


「なんか俺・・・、情けなくね?」


「だーれが情けないって?」

まるでこの世に独りきり〜・・・的どん底気分に浸りまくっていた時突然後ろから肩を叩かれて、心臓がひっくり返るほど驚いた。 つか、今ので確実に3年寿命が縮まった。

「きっ木下!?」
「ひっさしぶり〜!偶然だねっ!!」

振り返った俺の目の前で微笑んでいたのは、できれば暫く(というか一生)会いたくないなあと思っていた女だった。 木下結衣(きのしたゆい)、中3の時同じクラスで、割と仲良くて、・・・いいなって思ってた子。 卒業する時振られたけど。 別の高校に行ったからもう会うこともないと思ってたのに・・・。


「1年ちょっと・・・、ぶり? マコ、全然変わってないねぇ。遠目でもすぐわかった。」
「木下だって変わってないじゃん。髪が少し伸びてるくらいで。」
「ちょっとそれヒドくない? 前より一層カワイクなったとか女っぽくなったとかあるでしょ。」
「ごめん。俺ウソつけなくて。」
「ムカツクなぁ〜〜、マコちゃん!」
「マコちゃんてゆーなっての。」

思い掛けない場所で思い掛けない人物と遭遇して、しかも半ば強制的に近くのファミレスに連行されて始めは戸惑っていたが、一年ぶりに話す割に会話の内容やノリが全然変わってなくて俺も可笑しくなってしまった。久しぶりに大声で笑った気がする。
振られた子と話すなんてもっと気まずいものかと思ってたけど、意外とどうってことないんだな。それは多分木下の性格のお陰なんだろうけど。 サッパリした性格の子で、昔から凄く話し易かった。そういうところが好きだったんだよな。

お互いの高校の雰囲気とか生活とか、くだらないことを一頻り話して笑ってふと息をついた時に、二人ともが何となく避けていた話題を木下が切り出した。恐らく木下は今日その話を一番したかったんだと思う。


「でも、マコが元気そうでよかったよ・・・。今にも倒れそう〜って感じだったらどうしようかと思ってた。」
「・・・それって・・・・・・」
「うん、アキのこと。この前聞いたんだ。危ない状態じゃなくなったけど、まだ目を覚まさないって。
 でもさ、全く根拠はないんだけど、アキって何か大丈夫な気がするんだよね。
 アイツがどうにかなるなんてありえないって感じがする。」
「ん・・・。俺もそうは思ってるけど。」


「なあ・・・、今日、俺が木下と遭ったのって・・・」

「へへ、バレた? 駅で待ち伏せしちゃったよ〜。 電話じゃ何て言えばいいのかわかんなくてさぁ・・・
 あ、キモがんないでよ!?一応迷ったんだよ? けど、心配だったからね・・・。マコちゃん。」

バツの悪そうな顔をして木下が笑った。
偶然にしてはおかしいと思っていた。木下の高校も自宅もこことは全く逆の方向だし、そもそもここの駅はうちの高校の生徒ぐらいしか使わない。普段この駅を使わない学生が態々来て遊ぶような目ぼしい場所もここにはない。

大体の想像はついていたけれど、ハッキリ突きつけられるとヘコむな・・・。

「やっぱ俺って情けないヤツって思われてるんだよな・・・」
「はあ?なんで??」
「明人が傍に居なくなったら全然ダメ・・・みたいなさ・・・」
「なーに言ってんの! 誰だって親友がこんなことになったらダメダメになるよ!それがフツーですぅ。
 アキだってマコが倒れたりしたら絶対動揺するし。 つか、アイツなら医者に掴みかかるね。
 さっさとマコを何とかしろってさ。」

そうかなぁ・・・。大して動揺もしないような気がする。せいぜい揶揄う相手が居なくなってつまんないなぐらいにしか思わないんじゃないだろうか?
この間のことがあってから、やたらと卑屈な考えばかりが頭に浮かぶ。
俺が黙って俯いてしまったのを見て、木下が焦ってフォローしてくれようとした。 それはそれでまたヘコむんだけど。女の子にここまで気を遣わせる俺ってやっぱり情けなくて頼りないんだよな・・・って。


「とにかくー、アキは大丈夫だから! すぐ復活するって!!
 それに、マコも情けなくなんかないからね。 あんたは優しくて、いいヤツ!あたしの保証付き!」

一人頷きながら断言してる。言ってることはほんとに根拠のないことだけれど、木下が言うと何となくそうなのかなって思えるのが不思議で。こういう所、ちょっと明人と似ているかもしれない。だから木下とは話し易かったんだろうか?



「今日・・・ありがとな。 久しぶりにスゲー笑ったよ。元気出た。
 やっぱ暗いのってダメだよな。何でもかんでも悪い方に考えたくなるもん・・・。」

店を出て二人並んで駅に向かっている時に小声で呟いた。ここのところ塞ぎっぱなしだった気分が木下と話したことで少し解消できたんだから、本当はもっときちんと伝えなくちゃならなかったんだけど、何となく照れくさくて・・・、正面を向いたまま。

「お役に立てて光栄ですわ〜。 勇気振り絞って来た甲斐があったよ。」
「はは。 それ、大袈裟だって。」

「失礼ねえ。 アタシだって羞恥心っつう乙女な心があるんですよぉ。
 振られた相手に会いに来るのって、メッチャ勇気いるんだから〜〜。」


笑いながらサラリと木下が口にした不可思議な言葉が俺の思考と足を止めた。


「は?」


「なによ、『は?』って・・・」

「え、だって・・・振られたの、俺じゃん・・・」
「はあ?」



「「どういうこと!?」」


改札の手前で、顔を見合わせ固まってしまった俺たちだった。





(続く)
マズイぞアッ君





backありえないだろっ TOPnext

まあよかったよ、と言う方は
にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
ポチッと押してやって下さい♪




  1. コメント:0