ありえないだろっ 09 : 『お伽噺じゃねえんだよ』 (1) 【side-明人】
『どうして全て冗談で済ませようとする?』 だって・・・。 馬鹿じゃないだろうか、俺。
普通男に告られて、そのまま素直に受け取るヤツなんていないだろう。 いくら誠だってそれは同じだ。
女を呼び出さなかったとかメールを消したとかだけならまだしも(それでも充分性質悪いだろうが)、 あの夜俺が誠にしたことは悪戯の範囲を軽く超えていた。 男友達同士、ノリで自慰を見せ合うなんて話はよく聞くけど、俺と誠の間ではそんなことありえない。勿論俺の理性が1分と保たないだろうし、そもそも誠はそういうノリの男じゃないんだから。 あれは・・・、当然訴えられても不思議じゃないことだった。
それなのに。
誠だからここまで我慢してくれていたのに・・・、逆ギレとかマジありえねえよ、俺。
な〜んて自己嫌悪にどっぷりなくせに、まだしつこく期待なんかしていて。
あんな仕打ちを受けて、近寄るなと言いつつ毎日俺の面会に来るようなお人よしな誠だから。
いつもいつも、謝るのは誠。 でも許されているのは本当は俺の方で。 毎回必ず許してくれるから。
どれだけ冷たく突き放しても誠は絶対追いかけてきてくれると、アホみたいに期待している。
ほら、こんな風に。
「逆ギレしてさ、あんな捨て台詞吐いてさ、俺の反論も聞かずに出てくなんてズルいよ。」
マンション屋上のフェンスに凭れて立っていた俺から少し距離をおいた所に誠が座った。 給水タンクに取り付けられているライトの柔らかい光に照らされた横顔は、留守番を頼まれた子供のように心細そうな顔だった。
思わず駆け寄って抱き締めたくなる衝動を無理矢理抑え込んで素っ気ない声を作った。
「なんでココがわかった?」
「なんとなく、まだウチから離れてないような気がした。 そういうのって説明できない。」
「ふうん・・・」
「いっこだけ・・・確認したいんだけど」
「なに。」
「俺のこと、嫌ってるとかじゃないの?」
「見当違いも甚だしい。」
「じゃあ俺・・・・・・、告られちゃったりしたの?お前に。」
「告られちゃったんだろ。」
「どうしてそういう言い方するんだよ・・・。もっと普通に、ちゃんと話してよ。」
溜息を吐きながら誠が言った。 話し方なんかどうだっていいだろうに。引っ掛かる所が違うと思うけどな。
「あのさ誠、お前平然と流してるけど、俺はお前に告ったって言ってんだぞ?
キモいって思ったりしねえの? まだ冗談だと思ってる?」
「気持ち悪いとか悪くないとかまだよくわかんねーよ・・・。 実感湧かねーっていうか、信じらんねえ・・・
だってお前、中学の時彼女たくさんいたじゃん。 男なんて全然興味なかっただろ??」
「最初は俺だって混乱してたんだよ、お前をそういう対象として見るなんてさ。
他の男には興味なんて湧かねえし、女と付き合ってりゃそのうち元に戻るんだと思ってた。」
「木下とのこと、一度は俺をけしかけたよな?」
「でも結局邪魔しただろ? 盛り上がって振られるって方がダメージでかいからさ、
ヘコんでるとこにつけ込もうとしたんだよ。 はは、すんげー性格悪ィな、俺。」
「他人事みたいに言うなよ・・・。」
「じゃあ、高校入ったばっかりの頃すっごい遊んでたのは・・・」
「マジに告ったのにサラっと流されちゃったからな。 ま、遊んでりゃ吹っ切れるかと思って。」
「最近女と遊ばないのは・・・・・・」
「どうでもいい女の相手してても疲れるだけだって気付いたから。 」
「本気で・・・?」
「本気で。」
誠がまた大きな溜息を吐く。 実は誠のこの反応は俺にとってはちょっと意外だった。 俺がちゃんと想いを告げたら、ハッキリと嫌悪や拒絶は示さないとしても焦りまくると思っていたんだ。
割と平静に見えるのは、やっぱりまだ本気にしてないということだろうか? それはそれで拒絶よりもキツいかもしれない。どんなに真剣に訴えても結局軽く流されるんだと証明されているような気がする。
「まだ信じらんない?」
「俺がそういう対象だっていうのがまだちょっとピンとこない。
でも、揶揄われてるんじゃないってことはわかったし・・・・・・」
「わかったし?」
「・・・・・・嫌われてなくて、ホッとした。」
誠が俯いたまま小さく笑った。 ホッとしたのは俺も同じだった。 受け入れてもらえるかどうかは別として、俺とのことを全てリセットしたいと思っているのではないとわかったから。 それでまた更に諦めが悪くなってしまうのだが。
「近くに行っていいか?」
一瞬間があって、戸惑いながらの 『・・・うん』
隣に並んで座るだけのつもりだったけれど、やっぱりどうしても我慢できずに、膝を抱えて小さく丸まっている誠を脇側から包み込むように抱き締めた。
コイツはいつも、ネコみたいに温かい。腕の中に居てくれるとすごくホッとする。 誠からしてみれば落ち着くどころじゃないんだろうが。
「お前、今困ってるだろ。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「困った顔もカワイイけどなぁ・・・、やっぱり笑ってた方がカワイイな。」
「だ、だからーっ、カっ、カワイイとか、・・・そういうのは揶揄ってるみたいなんだって!」
「だってほんとにカワイイって思うんだもん。 仕方ねえじゃん。」
腕の中で誠がモゾモゾと身を捩る。顔を覗き込もうとしたら、額を俺の胸に押し付けてきた。
恥ずかしいからなんだろうけど、それじゃ煽られてるみたいだよ。
暫く居心地悪そうに身体を動かしていたが、巻きついた俺の腕が解けないとわかって諦めたのかボソボソと話し始めた。
「『今から付き合おうか』って話になったかって訊いたじゃん?」
「・・・なったのか?」
「はは、なるわけないだろ。 『直接呼び出せばよかったなぁ〜』って別れ際に言われたけど
付き合おうとかそんな話はしてない。 そもそも、そんなこと考えつきもしなかった・・・」
「なんで?」
「そこでなんでとか訊くなよ・・・。 頭が回らないんだよ全然。
良い意味でも悪い意味でも、お前のことで頭が一杯で、余計なことに気が回らない・・・」
最後は、意識を向けていなければ聞き取れないぐらいの小さな声だった。
まったく・・・。 そんな風に言われたら俺は自分の都合のいいように受け取ってしまうのに。
ここで・・・・・・ もし俺が、卑怯なことを言いだしても、誠はまた許してくれるだろうか?
「なんでこんなことになってんのか、わかんないってお前に言ったけどさ・・・、それウソで」
誠がゆっくりと顔を上げて俺と視線を合わせた。 少し首を傾げ、訝しげな顔をしながら俺の言葉の続きを待っている。
「勿論、幽体離脱の理屈なんかはわかんねえけど、お前のとこに来ちゃった理由っていうか
お前にしか見えなくて声も聞こえない理由は、なんとなくわかる。」
「もっ、もしかして、聞いてるこっちが照れちゃうようなこと言おうとしてないっ!?」
「いいじゃん、言わせろよ。 つーか茶化すな。」
「だってさー、恥ずかしいじゃん・・・」
「最初は実体の方に戻ろうとしても跳ね返されるみたいな感じがしてたんだけど、
今は逆に引っ張られてる感じがする。」
「マジでっ!? じゃあ元に戻れんのっ??」
勢いよく俺の胸元を掴んで、心底嬉しそうな声を上げた。その素直な反応に、俺の胸がチクリと痛む。
「多分・・・戻れると思う。」
「うっそ、マジでっ、だったら早く」
「でも、その後ちゃんと本体の意識が戻るかまではわからない。」
「え・・・」
「ごめん、そこまではほんとにわからないんだ。」
「そんな・・・」
恐らく喜びで上気したであろう顔が、一瞬にして青ざめていくのが見て取れた。
「マコの所に来たのは・・・、気持ちをもう一度ちゃんと伝えないままじゃ死んでも死にきれねえっつうか
未練タラタラで死ねないっつうか、多分そんな感じの理由で・・・」
「縁起でもないこと言うなっ!!」
「うん・・・でも、引っ張られる感じがし始めたのはこの間の夜以降だから、
俺の推測は間違ってはいないと思う。」
「わかんない・・・ 言ってる意味が全然わかんないよ・・・」
「つまり・・・、合意じゃなかったけど、まあ最期にマコに触れて思い残すことなくなっただろ〜?って、
そろそろ戻れよ〜って、神様みたいなヤツが言ってる・・・って感じ?」
「ばっ、ばっかじゃねーの!? なんだよ神様って!!そんなヤツ知らねーよっっ!!
こんな時にくだらない冗談言うなっっ!! ムカつくっ!!」
「いや、神様云々は俺もどうかと思うけど・・・、戻る時期が来てるっぽいのは確かだし。」
「でも・・・、意識が戻るかわかんないんだろ・・・? そんなハッキリしないこと・・・する必要あるのか?」
「やっぱり、このままでいるワケにはいかないじゃん? 戻れそうなんだから、戻んないとダメじゃん?
正直俺も恐いし、不安だけど・・・、やってみなきゃいけないんだと思う。」
俺の顔を凝視して強張っていた誠の顔が苦しそうに歪む。
「だからさ・・・・・・、最期に、マコにお願いがあって・・・」
「最期とか言うなっ!!」
「・・・でも意識が戻らなかったら、こうしてマコの顔見て話すことも」
「うるさい! そんなこと聞きたくない!!」
俺の言葉を遮って誠が叫ぶ。
耳を塞いでしまった両手をゆっくりと剥がしながら、背けられた顔を覗き込んだ。
「頼むよ、マコ」
こんな風に言われたら、絶対に誠が断れないのを知っているくせに・・・ 俺は、本当に狡い。
ごめんな、マコ。 本当にごめん。
何度も何度も胸の内で謝りながら、情けなくて卑怯な 『お願い』 を耳元で口にした。
当たり前のことだが、誠にとってはあまりにも突飛なことだったのだろう。 言葉の意味が理解できないとでも言うように黙って俺の顔を見返して小さく首を傾げたけれど。
暫くして、思い出したように瞬きを数回繰り返してからゆっくりと立ち上がった。
「ここ、寒いよ。 部屋に戻ろう?」
俺の腕を引っ張った誠の手は、小刻みに震えていた。
(続く)
まあ、皆様ご想像通りの『お願い』でございます・・・(苦笑)
まあ、皆様ご想像通りの『お願い』でございます・・・(苦笑)
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