味見してみる?



深夜1時のコンビニ。


住宅街に少し入ったところにあるウチのコンビニ。 大手じゃなくて、超ローカルでマイナーなやつ。半径20キロ以内では恐らくココ一軒だけしかねえだろみたいな。
駅前のメジャーな所と違って、この時間になると客影も疎らで、店内の顔ぶれもいつも同じだったりする。
だから嫌でも覚えちゃうんだよね、客の顔。

ほら、今入ってきた人も常連さん。スーツ着てるから会社帰りなんだろうけど、大体午前1時頃に来るお客さん。 スラリと長身で、日本人にあるまじきほどスッと通った鼻梁に涼しげな目元が印象的。 俺がここのバイトをし始めて数ヶ月、ほぼ毎晩この男性を見ている。会話したことはないけど、いつも内心話しかけてるんですよ。 『毎度ありがとうございます。いつも遅くまで大変ですね。』 なんてね。



「あと、肉まん2つ。」


彼からいつも通りの注文が入った。 そう、この人は毎度外見を裏切る買い物をするのだ。 高いワインとチーズしか口にしないんだよ私は・・・、みたいな顔をしてね。
レジにまずビールを置いて肉まんを頼むというのが一連の流れになっていて一々確認しないのだろうが、あいにく今夜は、保温ケースの肉まんの段を占領しているものは彼に渡せるものではなかった。(←ケースに入れたばかりだったんです)


「申し訳ございません。 只今肉まんは準備中でして・・・」


俺に言われて初めてケースを確認し、『準備中』 の張り紙を見てハッとして、次の瞬間思いっきり眉を下げて悲愴な顔をした。


「あ、そう・・・。 じゃあいいです・・・。」


ガックリ肩を落として、缶ビールだけを買って彼は帰っていった。




「そこまで好きかね、肉まんが。」

隣でレジに立っていたヤツが呆れたように笑う。

「ウチの肉まん美味いからね。」

俺はさりげなく彼をフォロー。
肉まんごときでそこまで落ち込まなくても・・・とは思うけど、彼の気持ちもちょっとわかるから。
当然食べられると思っていたモノが食べられなかった時って結構ショックじゃない? 舌や胃袋は期待しているわけだし、それを裏切られる(大袈裟?)のって相当ヘコむし余計喰いたくなるよね。 メジャーなコンビニならちょっと足を伸ばして他の店舗まで行けば求めるモノが手に入ったりするけど、ウチのコンビニは違うしさ、時間をおいて再来店でもしない限り彼はもう明日の晩まで肉まんを食べられないわけですよ。 うん、やっぱり気の毒だ。

実は俺、彼が今日も肉まんを買っていくことは予想できていたから、ちゃんと補充してたんだよね、1時間ほど前に。 冷蔵肉まんを保温ケースに入れ、スイッチをスチームに切り換えて約30分。 彼が来る少し前までホカホカと食べごろな肉まんがちゃんとあったんだ。 けどさ、ウチってマイナー・コンビニなくせに肉まんだけは評判でさ、人気があるわけ。だから夜中でも捌けるのが結構早い。おまけに今夜はかなり冷え込んでいて、いつも以上に肉まんが大人気。あっと言う間に売切れてしまった。(今日に限って客数もそこそこ多かったのだ) 保温ケースから無くなったらレンジでチンして客に売りつける所もあるらしいけど、ここのオーナーはそれを許さない。間に合わせの不味いモノは絶対売らないというポリシーがあるらしい。確かにレンジでチンしたものは美味しくないから俺もオーナーに賛成だけどね、彼だけには食べさせてあげたかったなあ・・・。(勿論美味しい方のをですよ)
きっとビールと肉まんは彼の一日を締めくくる大事なモノなんだよ。疲れをそれで癒すんだよ。なんて勝手な想像をして一人頷いていた俺だった。







空が白んでくる少し前、バイトを終えた俺は肉まんとピザまんを一つずつ買って店を出た。 まだ辺りが暗い帰り道、齧りかけのピザまんからホワホワと温かそうな湯気が上がる。暖を取るように手に包み、家に帰ってからの温かいシャワーと布団の中を想像してほんのり幸せ気分に浸りながら、店から50メートルほど離れたところの角を曲がった時だった。 少し先のタバコの自販機の灯りの前に、見慣れた人影を発見。
あと5メートル、4メートル、3、2・・・近づく俺に気がついて、彼がちょっと驚いた顔をした。 いつもは後に撫で上げている長めの前髪が下りている所為か、すごく若く見える。


「おはよう・・・でいいのかな?もう。」

「おはようございます。
 タバコ、買い置き無くなっちゃったんですか?」
「そう!さっき目が覚めて一服しようとしたら無くてさ、慌てて買いに来たんだ。
 5時過ぎててよかったよ〜。」

初めて交わしたにしてはスムーズな会話の滑り出し、かな。

「ヘビー?」
「意外とね。」
「店まで来てくださればよかったのに。」
「ほんの50メートルも我慢できませんでした。 ていうかこの格好で明るい店内に入る勇気ありません。」

そう笑う彼の格好は言うほどヒドくなかったけど。ゆったりとした生成りのVネックセーターにジーンズ。 ダウンを着込んでる俺に対して薄手のセーター一枚+素足にサンダルでは確かにかなり寒そうではあるが。 (この人は間違っても高校時代の着古したジャージとオヤジサンダルなんて普段の俺みたいな格好はしないんだろうな〜)

「肉まん、ホカホカと美味しそうに仕上がってましたよ?」

「うわ。それを言われちゃうと弱いな〜。
 今日食べられなかったからだろうけど、実はさっき夢にまで出てきたんだよね。」

「ははは、ホントどんだけ好きなんすかー。」

思わず噴き出した俺の顔を彼がじっと見つめた。 だから何かマズイことでも言ったかと心配になったけど、前髪の間から覗く目は笑みの形に柔らかく細められていて、そうじゃないんだとわかってホッとする。


「ご存知の通り、毎日、通い詰めちゃうくらいに好きだよ。」


それから、 『飽きないんだ、アレだけは』 と続いた。 ・・・ああー、肉まん、肉まんのことですよね。
なに、ちょっとドキッとしたりしちゃったんだろ、俺。


「あっ・・・、じゃあこれ差し上げます。肉まん。 まだ温かいですよ。」

微妙に早くなっている自分の鼓動に気付かぬフリをして、手首に引っ掛けていたコンビニ袋を少し掲げた。


「いや、でもそれは小杉君の朝メシじゃないの?」

「えっ・・・?」
「ああ、ゴメン、いつも名札を見てるから名前覚えちゃった。」

真っ直ぐに目を見てニッコリ笑いかけられて、今度は猛烈に照れくさくなった。
知られてないと思っていた人に名前を知られてるってさ、なんかこう、弱味を握られちゃったみたいな感じがしない? ああ、弱味って言うとイメージ悪いか。 まあとにかく重要なナニカを握られたような感じがする。

「えーと・・・、俺はこれ1コで足りるんで。」

名前の件をさりげな〜く流すように、俺は手に持っていた喰いかけのピザまんを指差した。 そして妙な照れくささを隠したくてヘンな宣伝までしたりして。

「ウチは肉まんだけじゃなくてピザまんもおススメなんです〜。今度試してみて下さいよ♪」
「ん、美味しそうだね。」
「超美味いっすよ。 俺個人的にはピザまんの方が好きかも。」

『肉まん命』的に毎日欠かさず買っていく人に俺の好みを押し付けても仕方ないんだろうが、彼がホンワカと笑いながら 『美味しそうだね』 なんて言ってくれたから、なんとなく力を込めてしまった。
言った後で益々照れくさくなって、慌てて袋に入っていた肉まんを渡そうとしたら、彼は俺の手をやんわり制して首を振り、ついでに不思議な言葉を投げかけてきた。


「そっち味見していい?」

「へ?」
「ピザまん。」
「え・・・でも、これ喰いかけで ──・・・」


喰いかけのピザまんに視線を一度落とし彼に戻そうとした時に、素早く頬を挟まれて唇が重ねられた。
フリーズしてアホみたいに薄く開けっ放しだった唇の隙間から、彼の舌がスルっと入り込んできて俺の口内を動き回る。


「んっ・・・んむむっ、・・・ぷはっ」


・・・って、俺は一体なにをされたのでしょうか???

やっと思考が動き出した時、彼は俺の頬を両手で包んだまま目の前で微笑んでいた。
うーむ・・・、やっぱり爽やかでイイ男。 思わず見惚れる俺も俺?


「美味しいね。ホントに。」
「・・・・・・・・・。」
「じゃあ、今日はピザまんを買うから、切らさずに準備しておいてね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」


未だ固まっている俺に、『ゴチソウサマ』 の一言を残して彼は去ろうとした。


「あのー・・・」

「あー、俺、八神です。八神政一。 覚えておいて、小杉君。」


くるりと振り返って自己紹介。  えーと・・・、順番かなり違ってませんか??・・・じゃなくて。


突然なにしてくれちゃってるんですか、ヤガミさん。 いきなりな展開で、俺、かなり混乱しちゃってますよ。
どうすんですか。


「これじゃイヤでも頭に残りますって・・・。」

「はは、そりゃそうだ。」


なんでもないことのように軽く言って相変わらず爽やかにヤガミさんが笑っているから・・・


今度はカレーまんでも薦めてみようか?  ふと思いついて俺も笑ってしまった。










続くような続かないような・・・微妙な感じ
染個人的には肉まんの方が好き(それはどうでもよい)


このお話、続くことになりました〜♪





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