続・味見してみる? 08
特に約束をしているワケではないのに、八神さんが仕事帰りにコンビニに寄った日は、朝方必ず店の近くまで迎えに来てくれる。そして俺は当たり前のように彼についていく。 ───・・・ ああ、ヘンな日常。
だったら 『もう来ないで下さいって言えばいい』 って、田中の言うことは正論だ。 けど受け入れられない。
そんな勿体無いことが俺から言えるワケがない。 だって 『お疲れ様』 って微笑んで迎えられると身体がホワッと温かくなるんだよ、眠気も疲れも一気に吹っ飛んじゃうんだよ。
「八神さん、アメ舐める? さっきお客さんに貰ったんだけど。」
「要らない。 っていうか、得体の知れないヤツからアメなんか貰っちゃいけません!」
「その人も常連さんだよ?」
「怪しい以外のナニモノでもないだろ、ソレ」
「自分のことは棚上げなんだよな〜・・・。 実際八神さんが一番怪しいんじゃない??」
「その怪しい男についてくる小杉君はナンなの」
「頭オカシイのかも?」
冗談言いながら手を繋いでマンションまでの道程を散歩するのは楽しい。
「ピーチ味だぁ〜。 俺コレ結構好き♪」
「やっぱりソレちょうだい」
俺が返事をする前に、当然のように口移しを実行させられるのも嫌じゃない。
オカシイ? うん、確かに普通じゃないんだろうけど。 どうだっていいじゃん、俺がイヤじゃないんだから。
天然だの鈍いだの八神さんには散々なこと言われてるけど、さすがにもう自分の気持ちには気付いている。
俺は ───・・・ 八神さんのことが好きだ。
それは多分最初から。 この人を常連さんだって認識した時から、気になって気になって仕方がなかったんだと思う。 だって、いくら上手く誘われたからって、興味がない人間に大人しくついてったりしない。 楽しくなかったら部屋に通い詰めたりしない。 同性とマウストゥーマウスのキスをするなんて、”慣れ” だけで片付けられるものじゃない。 やっぱり気持ちがあるからだ・・・って思うんだけど、八神さんは違うんだろうか?
その辺が・・・、八神さんの気持ちがちょっとよくわからない。
甘いこと言ってくるけどそれだけだし。 揶揄いの延長のような感じがするし・・・。
彼はどういうつもりなんだろう、とか、これからどうなるんだろう、とか、俺一人悩んだところで答えの出てこない疑問が頭を占領する。 『面倒なことは極力考えない』 の俺のお気楽モットーは最近殆ど遵守されていない。
「疲れた?」
いつもより口数が少ないのが気になったのか、俯いていた俺の顔を八神さんが心配そうに覗き込んだ。
「ううん、別に疲れてないよ。」
肉体的にはね。 精神的には結構きちゃってるかもしれないけどね。
「・・・すこーしだけ、朝の空気が暖かくなってきてるなあって思ってた。」
「だね。」
「もうすぐ肉まんシーズン終わっちゃうね。」
「あー・・・、それ言わないで。 悲しいから。」
「無くなったら・・・やっぱり悲しい?」
「モチロン悲しい。」
「どうして?」
「・・・どうしてって、そりゃ好きだから、食べられなくなるのは悲しい。」
「それだけ?」
「・・・・・・さあ、どうだろう。」
「肉まん無くなったらビール買う必要もないよね? そしたらもう店には来ないの?」
俺が含みを込めたのは彼もわかったはずだけど ──・・・
「はは。 適当に何か買いに通うよ・・・って言えばいい?」
返ってきたのは、俺の心のモヤモヤを晴らしてくれるような台詞ではなかった。
なんなんだよ、もう。 俺には 『君はすぐ流す』 って言うクセに、自分だって結局流すんじゃないか。
それじゃあ俺はどうしたらいいんだよ。 自分の気持ちは自覚した。でも、相手が何を考えているかすらわからないのに自分主導でコトを運ぶなんて到底無理だよ。
「八神さん・・・」
「ん?」
「俺ね、4月から専門学校通うことになってて・・・
今のバイト辞めるか・・・時間帯変えて日数減らすかするんで ──・・・」
受身過ぎるとは思うけど、これ以上、俺から出来ることはない。
足も止めず、平然と、何てことないよってフリをして、俺は八神さんに笑顔を向けた。
「もう部屋には行けなくなる」
(続く)
小杉も頑張ってみたが・・・。
当然、八神は躱す。
小杉も頑張ってみたが・・・。
当然、八神は躱す。
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