続・味見してみる? 11



俺の磨り減った神経に高い酒は少々キツすぎた。 いや、キキすぎた。

と言っても気分が悪くなったワケではない。寧ろその逆である。 淡いピンクの液体と傍らに座る男前の所為で俺はホドよい酔っ払い。 箍が外れたとまではいかないが、普段より数段気も口も緩んでしまっていた。 俺の 『将来の夢』 (でも、超漠然としたモノ) とか、素面ではこっ恥ずかしくて言えないようなことを、八神さんがウンウンと相槌を打ちながら真剣に聞いてくれているのをいいことに、語る語る(苦笑)
だって、やっぱり自分に関心を持ってもらえるってのは嬉しいもんじゃん?


「じゃあ小杉君ブランドで俺の服作ってね。」

真面目な顔をして八神さんが言った。 これは俺が服飾系の方面に進みたいと言ったことを受けての発言なんだけど。 俺はもう苦笑いを返すしかない。

「俺ブランドって・・・、だから話が飛躍しすぎっすよ。
 デザインの方に進みたいのか自分でもまだハッキリしてないし。 つーかソッチに進んだとしても
 ブランド立ち上げなんてできるワケないっしょ?? 店を持つのが俺の当面の目標なんですって。」

「そういうモンなの?」

「うん、そういうモンです。 俺、考え甘いヤツですけどさすがにそこまで無謀な野望は持たないよ。
 ・・・まあとにかくガッコで幅広い知識を身に付けるように努力します〜。
 そうすれば目的とか目標みたいなのがもっとちゃんと見えてくる気がするし。
 俺、物事決めるのに人の数倍時間が掛かるって昔から親に言われてたんですけど正にその通りで〜。
 地味ぃ〜〜に石橋君 (←石橋を叩いて渡るヒト) なんだよな〜。」

「はは。 それはちょっとわかる気がする。」
「あ、八神さんから言われるとなんかヤダ。」
「褒めてるのに?」
「そうかなぁ〜・・・?」

「堅実なのは良い事でしょう? 自分のことをちゃんと考えてる証拠です。 うん、偉い偉い。」

ニッコリ笑って八神さんが俺の頭を撫でた。

これは完璧な子供扱いで素面の時ならムカついてたかもしれないけど、やっぱり酔いの所為か八神さんの手だからか・・・、褒められながら優しく頭を撫でられるのは気持ちが良かった。

目を閉じてじっとされるがままにしていると、唇がふわりと軽く重ねられた。 いつもみたいに感触を確かめるだけみたいな柔らかいキスを何度か落としてから顔が離れていく。 もう少し・・・と思ったのと八神さんの頬に両手を添えたのはほぼ同時。 自分から唇を重ね、今されたのと同じことをして離した。


「酔った?」
「・・・ちょっとだけ」

俺からというのは初めてだから、冷静に訊かれるとちょっと恥ずかしい。 俯きながら窺うように目線を上げると、八神さんが苦笑いをしていて益々照れくさくなった。


「そういう目で見られると、俺もさすがにヤバいんだけど?」

冗談なのか少しは本気が含まれているのか、残念ながら俺にはまだ判断できない。 でもこのままだと絶対また逸らかされてしまう気がして・・・  それが嫌で、俺はワザと煽るようなことを言った。

「そんなこと言ったって、結局八神さんは俺にナ〜〜ンもしねーじゃん・・・」

「・・・それは牽制?挑発? どっち?」
「どっちでも。八神さんのお好きな方で。 もう、どうとでもとってください。」

「投げ遣りだな」

んなワケないじゃん!・・・これでも結構必死なんだよ俺。   うわ、必死って・・・我ながら哀しい。

居た堪れない気分になって、ピッタリとくっついていた八神さんからちょっと距離を取って座り直そうとしたんだけど・・・。 俺が動くより先に八神さんの大きな手が俺の後頭部を捕らえ、あっと思う間もなく唇が押し付けられた。


「・・・んっ!? やが ──・・・」

制止の為に開けた口の隙間にスルリと舌を差し込まれ、根元から絡められた。

飲み込まれそうなほど舌を強く吸われ、息苦しくなる頃またゆるりと絡められる。それを何度も繰り返されて。 差し出してしまった舌を唇で柔らかく食まれて唾液が滲み、舌先で口内を撫でられてむず痒くなった。

な・・、なんだよこれ、いつもと全然違う・・・・・・

「・・・ふっ・・・ぁ・・」

戸惑う思考に反して自分の口からは妙な声が漏れ、胸が忙しなく上下する。
後髪に差し込まれていた指を梳くように動かされるだけで背中が粟立ち、舌先を小さく啄ばむように吸われ、そしてまたきゅうっと強く吸い上げられて思わず意識が飛びそうになった。

う・・わ・・・流される・・・


「・・・やが・・みさ・・・・・・」


形ばかり彼の胸を押していた手もいつの間にかギュっと握り込められていたが・・・・・・、重なる舌の熱が全身に伝い渡り、何処も彼処も蕩けかけた時ふいに唇は解放された。

熱に浮かされたようにボンヤリしていた俺の顔を八神さんが覗き込む。


「もう一度訊くよ。 牽制、挑発、どっち?」
「・・・だからっ、どっちでもいいっつっただろっ・・・」


「だったら止める。 そういうのは好きじゃない。」


突き放すように身体を離されて呆然とした。 瞬間後、我に返って手元にあったクッションを投げつけたが、彼は余裕でそれを受け止めて平然と言い放った。

「ヘンなことしないって約束もしてるしな。」

「そうだけど、でも・・、こんなの、すげームカつくよ・・・」
「なぜ?」

「なぜって、んなこと訊かなくたってわかるだろ??
 ここまで煽っといて中途半端で止めるとか、ムカつくだろフツー!!」


俺が声を荒げても、八神さんは黙って俺を見下ろしているだけだったから・・・
なんでここまで言って伝わらないんだろうって、凄く悔しくて、惨めな気分になっていたんだけど。



「ふーん。 じゃあ、もういいのかな?」

不機嫌を露にした低い声で独り言みたいに呟いてから、俺の首根に手を掛けて強引に引き寄せた。


「キレたいのはこっちの方だよ。 今までどんだけ我慢してたと思ってんだ」

「そんなの・・・知らな ──・・・」
「逃げんな。 いいからこっち向けって」

目の前の、予想外にきつい表情と言葉に驚いて密着していた身体を押し返そうとしたが、素早く腕を取られて今度はソファーに押し付けられた。 咄嗟に背けようとした顔も、長い指に顎を掴まれて強引に正面を向かされる。

「キッカケ作ってくれたんだろ?」

「なに言 ──・・・」
「今更しらばっくれるのナシ。 ちゃんと俺の訊いたことに答えな。」

後退りは勿論ソファーの背に阻まれている。 身を捩ろうにも身体を半ば覆うような体勢で肩を押さえつけられていては無理だ。 加えて、しっかりと目を見据えられていては抗議の声すら出てこない。


「俺と一緒に居るのは苦痛だったか?」

苦痛に思ったことなどない。居心地良すぎて困ってたぐらいだ。
顎を掴まれながらも、俺は小刻みに頭を横に振った。


「俺のこと嫌い?」

んなワケ・・・ねえじゃん・・・
間をおかずにもう一度プルプルと。


「好きだよな?」

八神さんの右手が顎から頬にスルリと移動する。
一瞬だけ間をおいて・・・・・・、コクン。 今度は頭を縦に振った。


なんか、『白状させられちゃいました』 みたいな感じ。

こういうのは、なんかイヤダ。 なんか、ズルい・・・。 ワケもなくそう感じて、目の奥がジワリと熱くなった。
ヤバい、もしかして俺、泣く??


「じゃあ、 『小杉君』 貰ってもいい?」

急に声音を柔らかく戻して八神さんが訊くから、益々目の奥に生温かい水がせり上がってきて困った。
オマケに胸の辺りをぎゅうっと鷲掴みされているようで苦しい。


ねえ、それって、俺だけが八神さんのこと好きなわけじゃないってことですか?

・・・・・・だったらなんでもっとハッキリ言ってくれないんですか??



「す・・きなの? 八神さんは、俺のこと、好き?」

「それこそ今更訊かなくてもわかることじゃない?」
「でも・・・、昨日は平然と流したじゃん・・・」
「取り乱した方がよかった?」
「そうじゃないけど・・・、俺、すげーショックで・・・」
「平気なフリしてただけだよ。 どうしたらいいかなって色々考えてた。」

「昨日だけじゃなくて・・・、今まで揶揄われてただけかとか、逸らかされてたのかとか思って・・・」
「それは小杉君の方。 ずっと俺の言うこと逸らかしてた。」
「だって・・・」
「わかってる。 抵抗あったんだろ? だから俺も君が自覚してくれるまで大人しく待ってた。」
「じっ、、、自覚はちゃんとあったってばッ!」

「でも覚悟はなかった、でしょ?」


カクゴ??  覚悟って・・・・・・


やっぱり ソレ、、 って覚悟が要るようなことなんですか!?  (今更)


はははははは・・・・・・     瞳から溢れそうになっていた涙は、瞬く間に引っ込んでいった。



「適度に逃がしてあげるのも中々シンドかったんだよ? わかる?」


わかるようなわからないような、わかりたくないような・・・?  微妙です・・・


「ちゃんと俺も君のこと好きだよ? わかってる?」


聞きたかった言葉をいきなり与えられて強張っていた身体の力がストンと抜けた。 途端に温かいものがこみ上げてきて体内を満たす。 でも、わかったって、嬉しいって、伝えたくても胸が詰まって・・・ただ黙って何度も頷くことしか出来なくて、それがもの凄くはがゆい。



『だからね』

俺の頬を両手で包み込んで、最上級に甘く微笑みながら八神さんが言った。



「もう黙って俺に食われてしまいなさい」






(続く)
召し上がれーっ♪

これで八神の本性の全てが暴かれた・・・・・・ワケではない。





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