『ネザーランドドワーフ』 02



「信っっじらんない!!」


忙しなく身支度をしながらも悪態を吐くヒマはあるらしい。 いつもは桜色の頬が赤く色づいているのは、可愛いくもあり艶かしくもありで思わず頬が緩みかけたが、キッと睨まれて慌てて引き締めた。


「いくら呼んでも小杉君が起きないからだろう?」

「だからって鼻摘まむことないじゃん! 身体を揺するとかさー、大きい声出すとかさー・・・ 」
「何度も揺らしたし、大きな声も出したよ。」 (←大ウソ)
「でもでもっ、鼻摘まむなんてっ・・・ 俺死ぬかと思ったんだからっ!」

大袈裟な。 いくら俺でも死ぬまで摘まんでるはずがないだろうに・・・


「ハイハイ俺が悪かったから、トースト食べちゃいなさい。」
 
軽く遇われたのが気に入らなかったようで、不貞腐れ顔を隠しもせずトーストに齧りついた。
しかし、取り合えずといった感じで俺の目の前の席に着いてはいるが、腰は浮きかけてソワソワと落ち着かない。
俺が見ていなければ、間違いなくトーストを咥えたまま歩き回って身支度を進めるだろう。


「朝、一度君の部屋に戻ったりしなければもう少し時間に余裕があるんじゃないの?
 ここからの方が駅にも近いんだよ? わざわざ遠回りすることもないだろうに。」


途端、それまでの不貞腐れ顔が 『またその話か・・・』 とでも言いたげなウンザリ顔になる。


「部屋は余ってるんだし、ここに住めばいいじゃない。」


俺が言い終わるや否や、彼はピタリと咀嚼を止め、徐にコーヒーを一口飲んでから逸らしていた視線を俺に据えてキッパリと言った。


「それはイヤです。」


「どうしてそんなに嫌がるの? 凄くヘコむよ・・・」

「だからそれは何度も言ってるじゃないですか。
 俺、ガッコに行くようになってからバイトする時間もなくて親に仕送りして貰ってるんだよ?
 親のスネ齧ってる身で・・・、なんで、、、ど、同棲・・・ ってゆーか、一緒になんて住めるの・・・」

「家賃分だけでも浮くじゃない。ラクになるでしょう?」
「それじゃ俺、八神さんのヒモかペットみたいじゃん!!」
「誰もそんな風には思わないよ。」

「俺がイヤだ。」

またキッパリ。取り付く島もない。

彼の言っていることは一応筋が通っているし、今時の若者にしては (オヤジ的発言) 律儀でいいとは思うけれど・・・
彼は毎朝、自分の部屋に寄って学校の支度をしてから出かけてはいるが、外出している時以外は殆どこの部屋で過ごしているのだから既に同棲と変わりないではないか、とも思う。

ああでも、彼は未だに私物の一つどころか歯ブラシ1本すらこの部屋に持ち込もうとしない。 毎日 ”お泊まりセット” なるものを携えて来る。
そこまでキッチリ線引きされると正直気分が悪いし・・・、こちらも少々意地になってくる。

表情は全く変えていない自信はあったが、俺が内心ムッとしていたのを敏感に感じ取った彼は早々に話を切り上げにかかった。


「と・に・か・くーー、 ここには引っ越してこれません!!
 ・・・っと、 ああーヤバ、 マジで時間ないっ。 俺もう行くね!」


シンクで手早く皿を洗う彼の背中を態とらしく極近で眺め、玄関先へと小走りで向かう後について行き、そこでまたまたしつこく哀願してみたが。


「俺は、少しでも長く小杉君と一緒に居たいだけなんだよ・・・?」

「うん、勿論俺も八神さんと少しでも長く一緒に居たいよ。  あー、今日もなるべく早く部屋に来るようにするからね、
 八神さんも仕事早く終わらせてね! じゃねっ!!」


玄関のドアを開けかけたところで思い出したように振り返り、伸び上がって俺に軽くキスをしてから慌しく出て行った。


これはこれは。 駄々を捏ねる女の如く遇われてしまった・・・

普段は割と何事にも鷹揚な子で、良くも悪くも俺の術中に簡単に嵌ってくれるのだが、どういうわけかこの件に関しては泣き落としすら効かない。


「ったく。 どうして余計なところはしっかり男なんだ、あの子は。」




少々強引にコトを運ぶこともできなくはないのだが・・・

彼を落とすのに姑息な手を使った (多少の計算はしたが俺的に姑息な手段を取ったつもりはない) と散々責められたからあまり無茶なことはしたくない。 では、にこやか且つ穏便に彼の頭を縦に振らせるには・・・


さて、どうすればよいものか・・・

思案を続ける (断じて策略を巡らしているのではない) 俺だった。





(続く)
脳内妄想からどんどん話が逸れて
ちっともイチャつく方向に行かない・・・





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