『ネザーランドドワーフ』 05



俺のコンビニ通いが特別な目的と意味を持つようになったのは、バイトあけの小杉君と自販機の前で偶然遇った日からである。

会話をまともに交わしたのはあの日が初めてだが、それまでの無意味な通いが効いていたようで、彼は俺に対して警戒心を全く持っていなかった。
俺が名前を知っていたことに素直に驚く様や恥ずかしそうに照れる仕草は可愛らしく、俺に自分の朝食を分けてくれようとする優しさに心が温かく満たされた。
十代の盛りのついた高校生でもあるまいに、普通に会話をしている最中突然キスをしたい衝動に駆られ それを実行に移したなんて何年ぶりだろう?

”ピザまん味のキスは 実に甘かった”

いや、 ”初めてのキスは 甘いピザまんの味”  ・・・か?   (キモい)


・・・・・・ どうも俺には詩を吟じる才能だけは全く無いようだが、とにかく彼を本気で愛でたくなったのはその時からで。

そして、手に入ると確信したのもその時だった。




あれ以来、仕事帰りの夜中に一度コンビニに寄り、彼のバイトが終わる頃店まで迎えに行き、それから昼まで一緒に過ごすという超変則的な生活を続けている。 我ながら気色が悪いほど健気なことである。
始めに、ナンパ擬きなことをして部屋に連れ込んだのは俺的にも少々いただけなかった (流儀に反するらしい) が、それ以外は至極マトモで紳士的だ。 性急に押しまくることはせず彼のペースに合わせてゆっくりとアプローチをしつつ時々退いたり、と恋愛の基本に則って ──・・・


「なにを企んでるんだ八神。」

だーから、企んでるんじゃなくて基本を遂行しているだけだと言うのに。

というか、出社早々の定例報告会議で退屈し切っているのはわかるが、俺を喫煙室まで追いかけてきて言うコトか、それ? 咥えたタバコの煙越しに前野の顔を見た。

「別に。 なにも。」
「ウソをつけ。 お前がその顔をしているときは大抵悪巧みをしている時だ。」
「相変わらず失礼なヤツだな。」
「つまらん報告聞かされ続けてもご機嫌だし・・・・・・ あ、まさか、とうとう例のコンビニ店員を喰ったか!?」

「はは、お前はほんとに下品だなぁ。 まだ喰ってないよ。」

まだ、ね。

「トロくせえ。 お前らしくない。」
「そんなこともないよ。」

前野が訝しげに目を眇める。


「もう手の中にいる。」


付き合いが長いだけあって、わかり辛いと言われる俺の表情やちょっとした言動から、機嫌の良し悪し、はたまた悪巧みの有無まで読み取ることが出来る・・・、と本人は思っているらしいが。
さて、どこまで本当に読み取ってくれているのやら。


「気の毒に・・・」
「俺が?」

「”コンビニ君が” に決まってるだろう!」


前野が呆れ顔で声音を上げた。 ああ、やっぱり全く読み取ってないな。 こっちが呆れるよ。

この俺が、これ以上ないってくらい大事に丁寧に扱ってるんだ、気の毒なワケがないだろうに。
寧ろ子供にするような軽いキスのみで、彼の自覚を忍耐強く待っている俺の方が気の毒だろうよ。
毎日、可愛い寝顔を眺めながら添い寝するだけに留めている俺の強靭な精神力を褒めてくれ。


まあ、最近の小杉君の言動から、その忍耐も近々必要なくなりそうな気はするが。

小杉君を見初めてから早数ヶ月。
俺にしてはあり得ない程の時間をかけて慎重に接してきた。 味見はもう充分。
ああ、実食の瞬間はさぞかし感慨深いに違いない。 (いきなり直接的。つまりこれが本音)


「とにかく、あんまり無茶なことはするなよ・・・?」

強面に似合わない小心な台詞を吐きながら俺の顔を窺う前野に、極上の営業スマイルを贈ってやった。





(続く)
魔王、どんだけ自信家





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