『ネザーランドドワーフ』 07

小杉の出番は・・・?



「まーえの! リビングでタバコを吸うなと言っただろ!? 小杉君はタバコ吸わないんだから。」

いきなりの俺の大声に、前野が火を点けたばかりのタバコを落としそうになっていた。

「今いないじゃん・・・」
「臭いが残るだろう。」
「お前はどうしてんの? ヘビーだろうが。」
「換気扇の下。 毎回ここで吸うんだよ!」
「うわ、そんな八神ちゃん見たくない。」
「だったら帰れ。」

一瞬身体を竦ませて焦ったクセに、すぐに立ち直って軽口を叩きながら俺の傍まで寄ってくる。
狭いキッチンではないが、換気扇のもと、大の男二人が並んでタバコを吸っている図は確かに情けない。

ま、それが嫌なら帰ってくれても俺は一向に構わない。 そもそも前野が勝手に部屋までついて来たのであって、俺が招待したわけではない。

なにが、『コンビニ君に一言挨拶を』 だ。 お前は俺の親か。 ただ見たいだけだろうが。

「気ィ使ってんな〜。」
「彼は喫煙者じゃないんだから当たり前のことだろう?」


「コンビニ君って、そんなにイイのか?」

憮然としていた俺を繁々と眺めながら低俗な質問。

「どういう意味だ、前野。 意味如何によってはブッ飛ばす。」

「せいいっちゃん、恐いよ。 僕、入院したくないよ。」
「安心しろ、通院ぐらいで済むようにする。 なに、ほんの2、3日足腰立たなくなるぐらいだ。」

「マジで恐いよ、八神・・・。」
「お前がくだらない質問をするからだ。」

「だってさ、お前がそこまで執着するのは珍しいからさ。」
「執着?」
「自覚ないか?」

「ないことはない。」

「その内、養子縁組するとか言い出しそうな雰囲気だよ、お前。」
「養子縁組・・・ その手があったか。」
「おいおいおいおい・・・」

自分で話を振っておきながらかなり慌てている。 流せ、馬鹿者。

「冗談だよ。 一緒に住んでもくれないのに、息子になってくれるワケないだろうが。」

「一緒に住みたいと言い出してるところが既にお前らしくないんだが。」

「それは、俺もそう思う。」


独占欲、所有欲が人一倍強い自覚はあるが、確かに今まで付き合った人間にここまで執着したことはない。 どちらかというと、自分のテリトリーに踏み込んで来られるのは御免蒙りたい方だった。 (自分が踏み込む分には平気)

しかし何故あの子は、あの子に関しては、どうしても自分の身の内に囲い込みたくなってしまうんだろう?



「ただ、愛でたい・・・のかな?」

「ペット的に、か?」

それまでチャラけていた前野の声音が急に厳しくなった。

確か小杉君も 『自分はペットでもヒモでもない』 というようなことを言っていた。
つまり、俺が彼にしていることは、そんな風にしか受け取れないものだということだろうか?


「そんなつもりはないんだが・・・」

「相手は成人した男だろ? ペットみたいに扱われて気分がいいわけがない。」
「そんなつもりはない」

「女子供じゃあるまいし、愛でて欲しいなんて思う男はいないだろう。」
「うるせえな・・・」

「一緒に住んでくれないって? 当たり前だ。 俺だったら少しの時間一緒に過ごすことすら苦痛だよ。」

「うるせえって言ってんだろうが! もう帰れ、お前!」


前野の指摘は正しくないし、分別のついた歳になって他人から言われるべきことでもない。
そんなのは軽く流せばいい、そう思うのに。

思考に反して俺の声音も口調も厳しく上がった。



前野は顔を背けた俺を暫く黙って眺めた後玄関に向かいかけたが、リビングの戸口で立ち止まり、振り返って言い捨てた。 心底、呆れたとでも言いた気に。


「お前の気まぐれに付き合わされる小杉君が可哀想だ、八神。」



気まぐれだって? 冗談じゃない。

俺は元々ゲイじゃないんだ。 欲を吐き出したいだけの歳でもない。
気まぐれでわざわざ男を選ぶものか!


なのに何故それが伝わらない!?



「帰れ!」


苛立ちに任せ、傍にあったグラスを戸口に向かって思い切り投げつけた。















前野が出て行ってからどのくらいの時間が経ったのかはわからないが、ドアの開く音につられて顔を上げると、小杉君が目を見開いて立っていた。


「八神さん・・・ どうかしたの?」


彼の足元には粉々になったグラスの残骸。

そんな風に 心配と、微かに怯えを含んだような目で俺を見ないで欲しい。 酷く遣る瀬無くなる。



「どうもしないよ」

「でも・・・」
「なんでもない」


おずおずと傍に寄ってきて、俯く俺の顔を覗き込んだ彼を 力一杯抱き締めた。





(続く)
小杉より先に、前野に 『せいいち』 って呼ばせてしまった・・・

おまけは 『続きを読んじゃう!?』 から





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